IPO(新規株式公開)における借入金に対する経営者保証の取り扱い
2024年9月17日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
企業の借入金に対して経営者が個人保証を行っているケースは多いと思いますが、IPO(新規株式公開)の準備を進める企業においても同様のことが言えます。
ベンチャー企業においてもエクイティファイナンスだけでは資金が足らず、デッドファイナンスを使用することは多々ありますが、その際に経営者保証が付くことは非常に多いです。ただ、実はこの経営者保証の取り扱いは、上場審査において注意が必要な事項の一つとなっているのです。
本コラムでは、IPOにおける借入金と経営者保証の関係について詳しく説明します。
2.IPOにおける借入金と経営者保証の意義
(1)借入金と経営者保証の基本的な役割
企業が銀行から借入を行う際、経営者が個人的に保証を行うケースは多く存在します。
これは、特に中小企業においては特によく見られる慣行であり、金融機関が融資リスクを軽減するための代表的な手段の一つです。
また、経営者保証は借入金だけには留まりません。
例えばリース契約も性格的には金融取引近いものがあり、経営者が個人保証を行っていることは多いです。また、リースに近いところでは企業の賃貸借契約に個人保証を行っているといったケースもあります。
(2) IPOに向けた経営者保証の位置づけ
IPOを進める際、経営者による個人保証があることはネガティブに捉えられます。
企業が上場するということは、個人企業(プライベートカンパニー)から公開企業(パブリックカンパニー)になることです。このパブリックカンパニーは特定の個人のために存在する企業ではありませんので、それが経営者であったとしても私的な繋がりがあることは問題視されるのです。
ただここで、「経営者保証は企業にとって有利なのでは」と感じられる方もいらっしゃると思います。
個人経営からの脱却が根底にあるIPOでは、規制対象となるのは会社にとって不利な取引だけではなく、会社にとって有利な条件であっても対象となるのです。
また、これらの取引を関連当事者取引と呼びますが、関連当事者取引は開示の対象となる点にも注意が必要です。
3.経営者保証解除に向けた手順
(1)金融機関との交渉
経営者保証を解除するためには、まず金融機関と借入条件の見直しを行う必要があります。
当然のことながら、金融機関としてはリスク低減のために個人保証を求めているため、なるべく保証を外したくないと考えるでしょう。そのため上場の確度や、財政状態の健全化によって、経営者保証を解除する交渉が必要です。
それでも経営者保証が外せない場合には、その理由をよく確認したうえで、経営者保証を残したまま上場を進めるという手段もあります。証券審査等で保証を外すことが出来ない理由を説明のうえ、対処法法を検討しましょう。
(2)個人保証の解除時期
企業の財政状態にもよりますが、財政基盤が十分でない場合、個人保証が外れるのは上場直前になるケースが多いです。
上述の通り、金融機関からすると個人保証を外すことはリスクを高める行為ですので、上場の確度が低い段階での対応は難しいと考えるのはある意味当然です。
また上場スケジュールというのは、企業が立てた通りにならないことが多いことも留意が必要です。
金融機関からすれば上場にあたって個人保証を外すことが必要な点は理解できても、上場を延期することや断念するリスクも考慮しなければならないのです。
4.経営者保証解除のメリット
上場において課題となる経営者保証ですが、解除するメリットはどちらかといえば経営者側にあります。
個人保証を外す目的は上述の通り特定の個人との取引関係を解消することにありますが、経営者にとっては個人財産を保護でき、経営者個人のリスクを軽減することができます。
結果、経営者はより戦略的な意思決定に集中できるようになるという企業にとって間接的なメリットもあります。
5.最後に
IPOに向けた準備において、借入金に対する経営者保証の取り扱いは重要な課題です。
経営者保証があることで必ず上場が出来なくなるというものではありませんが、関連当事者取引は可能な限り排除しておくのが良いでしょう。
そのためには、金融機関との交渉や企業の財務基盤強化が不可欠です。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。