M&Aにおける表明保証とデューデリジェンスの関係
2024年11月01日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
M&Aは、他社との合併や買収を行う重要な手段であり、最近では企業の成長戦略として活発に利用されています。
しかし、M&Aは買い手、売り手双方にとって大きなリスクを伴います。特に通常、情報量で劣る買い手のリスクは見過ごせません。これらのリスクを最小限に抑えるため、多くの企業では買収前にデューデリジェンスを実行したり、契約上表明保証を行ったりします。
本コラムでは、この「表明保証」と「デューデリジェンス」について、基本的な意味とその関係性を解説します。
2.デューデリジェンスとは
(1)デューデリジェンスの定義
デューデリジェンスとは、M&Aにおいて対象企業の財務、法務、ビジネスなどに関する詳細な調査を行うプロセスをいいます。この調査を行う目的は、M&Aを行うか否かの意思決定に必要な情報を得ることにあります。この手続が省略されるケースもありますが、それは非常にリスクの高い行為といえます。
デューデリジェンスは買い手が対象企業のリスクや価値を正確に評価するための重要なステップであり、半ば当然に行うべきものであると考えましょう。
デューデリジェンスにはその分野によって様々なものが存在しますが、代表的なものは以下の通りです。
① 財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、対象企業の財務情報に着目した調査をいいます。意外かもしれませんが、会計処理というものは一定の幅があり、企業によって少しずつ異なります。ともすればM&Aを有利に進めるために、意図的に財政状態を良く見せようとすることも考えられるのです。
財務デューデリジェンスでは、このような財務上の潜在的なリスクを把握します。これにより、企業価値の評価に役立てることが出来ます。
② 法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスでは、契約条項、知的財産権、訴訟リスクなど、対象企業の法的な側面を着目した調査をいいます。これまで問題が起きていないからといって、これからも法律上問題がないとは限りません。事業に関わりのある全ての法律を把握し、事業運営にあたっている企業はごくわずかであり、気付かない間に法務リスクを負っているケースは多いのです。
法務デューデリジェンスでは、このような買収後に発生しうる法的リスクの評価や、対処すべき課題の洗い出しに役立てることが出来ます。
3.表明保証とは
(1)表明保証の定義
表明保証とは、売り手が買い手に対して、企業の財務、法務、事業状況などに関する事実を保証することです。これにより、買い手は提供された情報が事実であると信頼して取引を進めることができます。
表明保証が無ければ虚偽の報告をしてよいかと言えばそうではありませんが、例えば社内で未払残業代を認識出来ていない場合等、会社自身が気付かず簿外負債等を抱えていることもあり、表明保証はそういったリスクにも一定の保険を掛けることが出来るのです。
(2)表明保証の目的
表明保証の目的は、買い手がM&A後に予期しないリスクを被ることを防ぐことにあります。
売り手が表明保証に違反した場合、買い手はそれによって生じた損失の補填や、場合によっては損害賠償請求などの救済措置を取ることができます。
4.表明保証とデューデリジェンスの関係
(1)相互補完的な関係
表明保証とデューデリジェンスは、M&Aにおいて相互補完的な関係にあります。デューデリジェンスは、買い手が事前調査によってリスクを特定し、適切な対策を講じるためのプロセスである一方、表明保証は、デューデリジェンスで提供された情報が事実であることや、識別できなかったリスクに対する保険的な役割を果たします。
① デューデリジェンスによるリスクの特定
デューデリジェンスによって、買い手は対象企業のリスクを事前に調査します。
しかし、デューデリジェンスは短期間に行われ、全ての項目において裏付けとなる証憑を検証することは出来ません。例えば、財務デューデリジェンスで言えば、対象企業の全ての会計処理の領収書等の証憑を確認し、伝票を一つずつ確認することは実質的に不可能に近いのです。
そのため、デューデリジェンスでは把握できなかったリスクがある程度は存在するという前提に立つ必要があります。
② 表明保証の活用
デューデリジェンスで明らかにならなかったリスクに対して、表明保証は買い手を保護するための重要な手段となります。また、デューデリジェンスの手続において、使用する資料は売り手企業から提出を受けます。さらに資料だけではなく、一定の範囲は調査対象企業に対する質問という形で裏付けを取ることとなりますので、これら売り手企業が提供した情報に対して表明保証を取る意味は非常に大きいのです。
5.最後に
M&Aにおける成功は、リスク管理にかかっていると言っても過言ではありません。
このリスク管理においてデューデリジェンスと表明保証は非常に重要な役割を果たします。
M&Aに関するリスクを最小限に抑え、M&Aを円滑に進めるためには欠かせない手段であると言えるでしょう。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。