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2025年06月16日
M&A-COLUMN-

基本合意書(MOU)には何を記載すれば良い? 基本合意書の一般的な記載事項

2025年6月16日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

M&Aにおいて、基本合意書(MOU)は売り手と買い手が主要な取引条件や交渉の枠組みを合意するための文書です。
基本合意書には、法的拘束力を持つ事項と持たない事項がありますが、いずれの項目もリスク低減の効果や、以降M&Aの交渉が円滑に行われるために意味があります。

本コラムでは、この基本合意書に記載すべき一般的な事項とその概要について解説します。


2.基本合意書の一般的な記載項目

基本合意書は主に、①M&Aに関するの大枠の取引条件合意、②M&Aから生じるリスク低減のために行われます。
そのため、事前に合意をしておくべき事項は対象企業の状況やスキーム、外部環境によっても異なりますが、特に考慮しておくべき代表的な項目を以下に記載します。

(1)M&Aのスキーム(取引形態)

M&Aにはさまざまな手法があり、基本合意書の段階でどのスキーム(株式譲渡や会社合併等)を採用するか明記しておくのが望ましいです。スキームはM&Aを実行するための基幹部分にあたります。スキームが固まらないまま交渉を行うと、後々交渉が迷走したり長期化したり、最悪の場合には破談となってしまう可能性も存在します。

ちなみに主なスキーム例として、以下のような方法が存在します。

  • 株式譲渡 : 売り手の株主が所有する株式を買い手に譲渡する方法
  • 事業譲渡 : 会社全体ないしは、特定の事業を売買する方法
  • 合併   : 売り手企業と買い手企業を組織再編により統合する方法
  • 分割   : 売り手企業の一部事業を組織再編により買い手企業へ移転する方法

(2)譲渡価格と支払条件

基本合意書では、M&Aの譲渡価格の大枠を決定し、支払方法を記載するのが一般的です。
最終的な価格はデューデリジェンス後に調整されることが多いため、通常は概算価格を記載するに留めます。反対に、この時点で金額を確定することは非常にリスクの高い行為であると言えるでしょう。
また、代金の支払は一括で支払う以外の方法も選択可能です。具体的には以下のような方法が存在ます。

  • 一括払い
  • 分割払い(業績に応じて残金を支払うアーンアウト条項含む)

(3)M&Aのスケジュール(予定)

M&Aを進める上での予定スケジュールを記載します。
ただし、スケジュールを決めたといって、計画通り進まなかったとしても焦る必要はありません。M&Aは双方にとって非常に重要なものであり、何か懸念事項があればスケジュールを延期することも珍しくありません。
そのため、通常スケジュールも法的拘束力を持たない形で基本合意書を締結することが一般的です。

例えば、以下のような内容を記載します。

  • 基本合意書の締結日、有効期間
  • デューデリジェンスの実施時期
  • 最終契約書の締結予定日
  • クロージング予定日

(4)デューデリジェンスを実施する旨とその範囲

デューデリジェンスはM&Aのリスク評価に不可欠なプロセスです。
しかし、買収監査と呼ばれることもあるデューデリジェンスは受ける側からすると煩わしいと感じられるケースもありますので、事前に基本合意書にデューデリジェンスを実施する旨を記載しておくのが良いでしょう。
また、デューデリジェンスには様々な分野があるため、その範囲が決まっている場合には、具体的な実施分野を記載することも可能です。

  • 財務デューデリジェンス : 財務諸表(計算書類)、簿外債務、財務リスクの調査等
  • 税務デューデリジェンス : 税務リスクの調査等
  • 法務デューデリジェンス : 契約書、知的財産、法務・訴訟リスクの調査等
  • 事業デューデリジェンス : 市場環境、事業の将来性、顧客基盤の分析等

(5)役員および従業員の処遇

M&A後の経営体制について基本的な合意を形成するため、売り手側の役員や従業員の処遇に関する方針を記載します。
これらの内容は売り手からすれば関心の強い事項であり、取引の実行に大きな影響があります。

  • 現経営陣の継続関与の方針
  • 退任する場合の退職金や競業避止義務の有無
  • 従業員の継続雇用条件(給与、福利厚生など)

特に被買収企業が中小企業の場合、退任する役員に株主が含まれていることが多く、役員に対する退職金は譲渡対価と合わせて検討する必要がある重要な検討事項と言えるでしょう。

(6)独占交渉権(ノーショップ条項)

基本合意書には、売り手が一定期間、他の買い手と交渉しないことを義務付ける独占交渉権(ノーショップ条項)を盛り込むことが一般的です。独占交渉権を付けず、売り手が同時に複数の企業と交渉する場合、買い手の立場は非常に不安定なものとなります。売り手の視点からも、買い手がM&Aを進めることに消極的になってしまうおそれがある点は考慮すべきでしょう。

基本合意によって独占交渉権を得ることで、買い手は安心して交渉を進めることができ、時間と労力を無駄にするリスクを回避できるのです。
なお、独占交渉権には一定の有効期間を設けることが一般的です。

(7)秘密保持義務

M&Aはその検討を行っているという事実ですら機密情報とされるケースは多く、交渉の過程で機密情報も大量に取り扱います。秘密保持義務は別途交渉開始段階で契約書や誓約書(NDA)を締結しておくのが望ましいですが、基本合意段階で締結していない場合には、売り手・買い手双方が秘密保持義務を負うことを基本合意書に明記しておくことがあります。

(8)M&Aに関する取引費用の負担

M&Aでは、デューデリジェンスやアドバイザー報酬などの多額のコストが発生します。
いずれの企業がコスト負担をするのかは事前に明確にしておかなければ後々トラブルに繋がってしまう可能性があります。
また、途中で交渉が決裂した場合のトラブルを防ぐ意味でも、基本合意で条件を明確にしておくことは非常に意味のあることなのです。

(9)契約解除条件、違約金

M&Aの進行中に交渉が決裂する可能性もあるため、契約解除の条件を明確に定めておくケースや、いずれかの過失によって契約解除となった際、違約金を明記するケースも存在します。
契約解除となる可能性がある項目には以下のようなものが存在します。

  • デューデリジェンスに十分な協力が得られない、又は許容不可能な発見事項があった場合
  • 売り手・買い手において条件が合わず合意に至らなかった場合
  • 法規制上の問題が生じた場合

(10)クロージング条件

最終契約の締結後、取引が完了するための前提条件(クロージング条件)を記載します。
M&Aの交渉は双方不安定な立場で行われている側面があり、例えば主要な役割を果たす役員や従業員(キーマンと呼ばれる)がM&Aの実行により退職してしまった場合では買収した企業や事業が立ち行かなくなってしまう可能性もあります。

そのため、このようなキーマンの継続関与などをクロージングの条件に含めることにより、不確定要素を除外することがあります。

  • 独占禁止法に基づく届出
  • キーマン条項

(11)保証債務の解消等

被買収企業の負債に対して代表者が債務保証を行っていることは一般的な実務として広く浸透しています。
これらは非常に大きな負担であり、M&Aが成立して以降も保証が残るのか残らないのかは現在保証を行っている代表者等にとって重大な関心事項です。
オーナーチェンジが起こる場合、保証も新たなオーナーが行うケースの方が多いと思いますが、これらの条件も非常に重要なものであるため、基本合意書に記載しておくのが良いでしょう。

(12)善管注意義務

基本合意書締結後からクロージングまでの間、売り手側が会社経営を適切に維持する義務(善管注意義務)について定めます。
例えば株式を全て売却する場合、M&A実行後の業績は現株主にとって関心が薄れてしまいます。
これはある意味当然のことですが、そのような状況であったとしても経営には真摯に取り組むことを求めるため、このような事項を記載することがあります。

(13)準拠法と合意管轄裁判所

M&Aの契約に関する紛争が生じた場合に備え、準拠法(日本法、米国法など)や紛争解決の手続き(裁判所の管轄、仲裁手続き)を明記します。


3.終わりに

基本合意書はM&Aの交渉を円滑に進めるための重要な文書であり、個々の案件ごとに条件を定める必要があります。
基本合意書に記載していないからといっていい加減な対応して良いというわけではありませんが、様々な条件を記載をしておけば両者が交渉を行ううえでの安心材料となることは間違いありません。

M&Aの成立に、基本合意書の締結は大きく貢献することが出来ますので、専門家の助言を受けながら、交渉の安定性を確保するための内容を盛り込むことをお勧めしております。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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