【図解】IPOで求められる3種類の機関設計について分かりやすく解説 上場準備会社では監査役会の設置は必須?
2025年6月30日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
IPOを目指しているスタートアップ企業やベンチャー企業では、比較的初期の段階で監査役会を設置するよう要請を受けたことがあるケースも多いのではないでしょうか。
しかし監査役会の設置には複数人の監査役を置かなければならず、人員の確保や費用負担の面から避けられるものであれば避けたいという考えもあるでしょう。そのためか上場支援をしていると「監査役会の設置は必須か?」という質問を受けることがあります。
結論から申し上げれば、選択する機関設計によって監査役会は必須ではありませんが、結局、監査を担う機関は必要となります。
本コラムでは、上場に際して必要とされるコーポレート・ガバナンス体制と、その選択肢となる三つの機関設計パターンについて解説します。
2.上場企業に求められる機関設計
上場企業においては、企業のコーポレート・ガバナンス体制と内部管理体制が有効に機能していることが求められています。この観点から、監査機能を果たす体制の整備が必要とされ、以下のいずれかの機関設計を採用することが求められます。
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
上場企業で上記以外が認められないということは、上場を目指す上場準備企業ではいずれかのタイミングでこれらの機関設計に切り替える必要があります。
この点、上場会社以外の企業は、指名委員会等設置会社又は監査等委員会設置会社は珍しく、この二つの機関設計以外の形態で上場したいということであれば、監査役会の設置が必須となるのです。
しかし、最近上場企業では監査等委員会設置会社が増加しており、これらの機関設計まで選択肢に含めれば監査役会の設置は必須ではありません。
3.上場に認められる3パターンの機関設計
上場企業では特定の機関設計以外は認められないのは、前述の通りですが、それぞれの形態を比較すると以下のようになります。
(1)監査役会設置会社
従来の標準的な機関設計であり、スタンダードな形態といえます。
多くの上場企業が採用している形式であり、会社法に基づき、監査役(うち半数以上が社外監査役)で構成される「監査役会」が設置されます。最低限必要な社外役員の人数は3名です。
しかし最近では減少傾向にあり、反対に監査等委員会設置会社が増加傾向にあります。
(2)監査等委員会設置会社
最も新しく認められるようになった機関設計であり、最近採用する企業が増加している形態です。
取締役会の中に「監査等委員会」を設置し、その委員会が監査機能を担う会社形態です。委員の過半数は社外取締役である必要があります。最低限必要な社外役員の人数は2名です。
ただし、会計監査人設置会社の義務を負うことになる点には注意が必要です。
(3)指名委員会等設置会社
取締役会の下に「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」の最低三つの委員会を設ける会社形態です。最大の特徴は執行役に業務執行の多くを委任することにあります。
そのため、監査委員会の監査対象は主に執行役となります。
すべての委員会は3名以上で構成され、その過半数は社外取締役でなければなりません。
ただし、役員は各委員会の兼務が認められているため、最低3名の取締役(内2名は社外取締役)が全ての委員会を兼務することも可能です。
しかし、上場準備においては、相互牽制機能や実質的に与えられた役割を果たせるかどうかも評価をされますので、兼務を利用した最低限の人員数では上場審査上問題となる可能性が高いといえるでしょう。
4.機関設計の選択基準と比較
上場準備企業がどの機関設計を選択すべきかは、今後企業をどのようにしていきたいか、役員の構成(社外役員を確保できるか否かを含む)など、企業の状況によって異なります。
例えば、一般的な中小・中堅企業であれば、これまでの機関設計に最も近いことの多い「監査役会設置会社」から検討を始めることもあります。最近では社外役員の確保が難しい環境という理由で、「監査等委員会設置会社」を選択するケースも見受けられます。
最も数の少ない、「指名委員会等設置会社」についても、上場準備段階でも人員を潤沢に確保できる場合には、ガバナンスを重視し海外機関投資家との関係強化を狙って選択するケースもあるでしょう。
5.終わりに
監査役会の設置が必須かと問われれば、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社のいずれも採用しないのであれば、必須であるといえます。
しかし、監査役会設置会社は必ずしも唯一の選択肢ではありません。上場審査上は、監査等委員会設置会社や指名委員会等設置会社といった機関設計も選択可能であり、それぞれの特徴と自社の状況を踏まえた設計が求められます。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
弊事務所では、新規株式公開(IPO)やM&Aに関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。