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2025年07月31日
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スタートアップ企業における税制非適格ストックオプション その1 無償発行且つ有利発行の場合における企業、従業員双方の課税関係の整理

2025年7月31日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

スタートアップ企業が成長を目指す上で、優秀な人材の確保と定着は極めて重要な課題です。
その中でインセンティブ制度として、ストックオプション(Stock Option:通称SO)は極めて有効な手段といえ、多くの企業で導入されています。

ストックオプションは、企業の成長に伴う株価上昇のメリットを従業員等と共有できる仕組みであり、企業と従業員の利害一致を図る上でも意義のある制度です。しかし、当該ストックオプションが「税制適格」か「税制非適格」かによって、どのタイミングで、どのように課税されるか変わります。
実はこの違いは重要で最終的な経済的メリットが大きく変化するのです。

本コラムでは、この中でも、税制非適格ストックオプションの内、無償発行且つ有利発行型の場合に焦点をあて、制度の概要から課税関係、企業の実務対応に至るまでを整理します。


2.ストックオプション制度と税制適格、非適格

(1)ストックオプション制度の概要

ストックオプションとは、一定の条件下で自社の株式をあらかじめ定めた価格で購入できる権利を指し、役員・従業員などの報酬制度の一環として活用されます。付与される新株予約権は、インセンティブ効果を持つと同時に、会社と従業員の利害を一致させる手段として期待されます。

(2)税制適格・非適格の区分とその意味

税制適格ストックオプションとは、租税特別措置法に定める要件を満たしたものを指し、株式の譲渡時まで課税が繰延べられるメリットがあります。加えて、課税時点では譲渡所得として分離課税の対象となり、他の給与所得等とは合算されずに課税されるため、税率が相対的に低くなる可能性があります。
株価の影響によっては、結果的に総合課税よりも税負担が増加するケースもあるものの、ストックオプションから得られる収益額は大きくなりやすいことから、分離課税の方が税額を抑えられる可能性は高いです。
また、課税額を抑えられる幅が大きいことから税制適格を検討する企業は多いです。


3.無償発行・有利発行型のストックオプション

(1)無債発行とは

無償発行型とは、従業員等が対価を支払うことなくストックオプションを取得する形式です。
無償発行が税制適格要件の一つとなっているため、無償発行を行うケースは多いのですが、ストックオプション自体に価値を付けることが可能なため、有償で付与される場合もあります。

(2)有利発行とは

有利発行型は、ストックオプションの権利行使価格が株式の時価よりも低い価格で設定されている場合を指します。例えば、行使価格が200円、時価が800円の場合、その差額である600円が経済的利益とみなされます。
原則として権利行使価格が時価未満で設定されている場合、税制適格要件を満たさないことから、税制非適格ストックオプションに該当することとなります。


4.ストックオプションの所有者(従業員等)の課税関係の整理

(1)付与時の取扱い

付与時点においては所得として認識はされません。
従って、無償または有利発行型のストックオプションであっても、付与時点において課税関係は発生しません。

(2)権利行使時の課税

権利行使により株式を取得した場合、行使時点の株式時価と権利行使価格との差額が経済的利益として給与所得として所得税が課税されます。例えば、行使時株価800円、行使価格200円の場合、600円が給与所得として課税対象となり、源泉所得税の対象となります。

このように、株式譲渡前の収入(キャッシュイン)が発生していない段階で課税が行われるため、手元資金が不足している場合には納税資金の確保が問題となります。また、この給与所得は総合課税の対象となり、他の所得と合算して高い税率が適用される可能性があるため、税負担が大きくなる傾向にあります。

(3)株式譲渡時の譲渡益課税

ストックオプション(この時点では株式となっている)の所有者の課税関係として、株式を譲渡(売却)した場合、譲渡価額と行使時株価との差額が譲渡所得(株式譲渡益)となります。例えば、譲渡価額1,000円、行使時株価800円であれば、200円が譲渡益となります。


.源泉徴収と企業側の実務対応

(1)源泉徴収義務の根拠と範囲

権利行使により取得した株式の経済的利益は給与所得とされ、発行会社には源泉徴収義務を負います。もし仮に源泉徴収しなかった場合、不納付加算税や延滞税といったペナルティが課される可能性があります。

(2)実務的な処理方法と注意点

源泉所得税は行使時に徴収し、通常、翌月10日までに納付する必要があります。
ここで注意が必要なのは、ストックオプションの行使時点で企業側から明確な給付が無いことにあります。要するに、通常の給与のように企業側から金銭の支給がないにも関わらず源泉徴収を行わなければならないことから、失念をしないように注意が必要です。
また、もしも源泉徴収が漏れてしまった場合、この源泉徴収額を従業員に求償しなければ、その税額相当分についても給与として追加課税の対象となる可能性があることに注意が必要です。


.終わりに

今回は税制非適格ストックオプションの内、無償発行、有利発行型に焦点をあてて解説を行いましたが、ストックオプションは制度設計の自由度が高い反面、課税タイミングや源泉徴収義務に関する理解が不十分なまま導入すると、予期しない税務リスクを招くおそれがあります。
制度導入にあたっては、あらかじめ課税関係と実務上の対応を正確に把握し、専門家の助言を受けた上での設計・運用することをお勧めします。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。

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