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2025年08月12日
IPO-COLUMN-

スタートアップ企業における税制非適格ストックオプション その2 SO有償発行の場合における企業、従業員双方の課税関係の整理

2025年8月12日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

スタートアップ企業が成長を遂げるためには、優れた人材を確保することは重要な課題です。
しかし、創業間もない企業では資金余力がなく、多額の人件費を確保できないことは珍しくありません。そのような場合、有効な手段の一つにストックオプション(Stock Option:通称SO)があり、実際に多くの企業が導入しています。

ストックオプションは、企業の成長に応じて上昇する株価の恩恵を従業員と共有できる仕組みであり、会社と従業員の利益を一致させることが出来ます。しかし、ストックオプションには「税制適格」と「非適格」が存在し、課税のタイミングや課税額が大きく異なり、実際に手元に残る金額も変わります。

本稿では、税制非適格ストックオプションの中でも「有償型」をテーマに取り上げ、制度の概要や課税の取り扱い、企業としての実務対応までを解説します。


2.ストックオプション制度と税制適格・非適格の違い

(1)ストックオプションとは

ストックオプションとは、一定の条件の下、自社株式をあらかじめ定められた価格で購入できる権利を意味し、役員や従業員の報酬の一環として活用される制度です。ストックオプションはインセンティブ報酬として機能し、企業の成長が従業員の利益に繋がる効果があります。
また、2024年の改正において一年間の権利行使価額の引き上げなどの変更があり、税制適格ストックオプションがさらに使いやすくなりました。

(2)税制適格と非適格の区別

税制適格ストックオプションは、租税特別措置法に規定された要件を満たすものであり、二つの大きなメリットがあります。
まずは課税が株式譲渡時まで繰延べられるという点、そして分離課税の対象となるため、税率が低く抑えられる可能性がある点が挙げられます。
一方、非適格ストックオプションはこうした要件を満たさないため、付与時や行使時に課税が発生しやすくなります。このデメリットは大きく、これが、税制適格ストックオプションが選ばれる主な理由の一つといえるでしょう。
その点、今回解説を行う有償型ストックオプションの場合、税制非適格でありながら課税体系が税制適格に類似する点が特徴と言えます。


3.有償型ストックオプションの特徴

(1)有償型の概要

有償型ストックオプションとは、従業員がストックオプションの取得に対価を支払うものをいいます。
ただし、この価格は1円でも支払えば良いかと言えばそうではありません。ストックオプション自体にも価値はありますので、その時価よりも低い金額で発行してしまうと権利付与時点で給与所得課税される可能性があります。

そのため、以降の解説では基本的にストックオプションの価値は適正な時価で購入するという前提で解説をします。たとえば、ストックオプションの評価額が50円であれば、その金額を従業員が支払って取得するケースを想定しています。


4.従業員等における課税関係

(1)付与時の課税有無

ストックオプションを時価で取得している場合においては、経済的な利益が発生していないと判断されるため、権利付与時点では課税関係は生じません。
反対に著しく市場価格と乖離した条件で発行された場合には利益認定の余地があり、給与所得課税される可能性があります。

(2)行使時の取扱い

税制非適格ストックオプションのうち、有償型については、行使によって得られる株価上昇分(いわゆる値上がり益)について、所得税の取扱い上は経済的利益として認識されないとされています(原則として課税されない)。

(3)株式譲渡時の課税

ストックオプションを行使して株式を取得し、それを売却した場合には、譲渡価額から購入時の取得費および行使価額を差し引いた金額が譲渡所得として課税対象になります。
たとえば、株式を1,000円で売却し、ストックオプションの取得価額が50円、行使価額が200円であれば、譲渡益は750円となります。


.企業における源泉徴収と実務対応

(1)源泉徴収の義務について

有償型ストックオプションの場合、従業員が適正価格で購入していれば、課税対象となる給与所得が生じないため、企業側に源泉徴収義務は発生しません。

(2)実務面での注意事項

有償型は税務処理上の煩雑さが比較的少なく、源泉徴収漏れのリスクも低いとされています。
ただし、権利付与時に課税がされないのは、ストックオプションが適正な時価で取得されていることが前提であり、この点、裏付けとなる資料(評価書など)を整備しておくことは重要です。

万が一、時価より著しく低い価格で発行されていた場合には、ストックオプション自体が有利発行となり、経済的利益を供与しているとみなされれば、この時点で課税、源泉徴収の可能性が出てきます。評価根拠を明確に残しておくようにしましょう。


.終わりに

今回は、税制非適格ストックオプションの中でも「有償型」に焦点を当てて、その税務上の取り扱いについて整理しました。有償型は一見して税務リスクが小さく見えますが、「適正な時価での購入であること」が前提条件であり、ここを軽視すると、後々の問題となる可能性があります。

ストックオプション制度の導入にあたっては、制度の構造と税務上のリスクを事前に十分に理解し、必要に応じて専門家のアドバイスを得ながら設計・運用していくことをお勧めしております。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


弊事務所では、新規株式公開(IPO)やM&Aに関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。

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