役員退職金規程は不要?役員退職金(退職慰労金)の損金算入限度額との関係
2025年10月31日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
の規程と税務上の損金算入額の関係-300x218.png)
1.はじめに
役員退職金(退職慰労金)は、企業の経営に携わった役員の功績を慰労する目的で支給されます。法律上、その支給や規程の整備は義務ではなく、支給するか否かは会社の裁量に委ねられています。
一方、税務上は「不相当に高額」と判断された部分が損金不算入となります。
具体的な金額に関する言及はないものの、支給額や算定根拠には合理性が求められています。特に規程がない場合、税務調査や外部からの説明要請に対して、妥当性を証明する負担が大きくなることがあります。
本稿では、役員退職金の概要、支給手続、規程の有無による違い、そして損金算入限度額との関係について解説します。
2.役員退職金とは
役員退職金は、役員が退任や死亡を迎える際、その在任期間の功績を慰労する目的で支給されるもので、法律で支給義務が定められているわけではありません。
この支給金額は会社の裁量で決められるものの、税務上は、「不相当に高額」である場合には損金算入が認められません。
この金額について明確な金額や計算式が提示されているわけではありませんが、直近の月額報酬額や在任期間、役職の重要性などを基準に判断されます。このため、支給額の決定には計算根拠と適正な手続きが必要となるのです。
反対にいえば、税務上損金算入できなくても良い(有税で処理する)のであれば、金額はいくらでも良いわけです。
3. 役員退職金の支給手続
役員退職金は会社法上、取締役の報酬等に含まれるため、支給には定款または株主総会の決議が必要です。実務では定款に定めることは珍しく、多くの場合は株主総会で支給を決議します。
株主総会で直接金額を決定することも可能ですが、役員個人の金額を開示しないため、具体的な金額の決定を取締役会に委任する方法が広く用いられます。この場合でも、株主総会で支給基準を明示し、その基準に基づき取締役会が金額を決定する形が望ましいとされます。
支給基準は、役員退職慰労金規程などの規程として明文化するのが理想ですが、確立した慣行であっても基準として機能すれば差し支えありません。ただし、株主が基準を確認できるよう、本店での備え置きや参考書類への記載などの措置を講じることが必要です。
4.退職金規程の要否
役員退職金(慰労金)の支給を行うにあたって、役員退職金規程は法律上必須ではあり、株主総会の決議と合理的な算定根拠があれば規程がなくても支給は可能です。しかし、前述の通り税務上の取扱いを含めると、規程がないからといって自由に金額や条件を設定できるわけではありません。
むしろ、明文化された基準が存在しない場合には、税務調査や株主からの質問に対して、個別の支給内容や算定根拠を一から説明する必要があり、対外的な説明能力や裏付け資料の充実が求められるのです。
5.退職金規程を作成する理由
前述の通り、規程がなくても損金算入は可能ですが、実は役員退職金規程を整備している企業は多く存在します。その背景には、株主や税務調査等の対外的に説明をする際の根拠となることがあります。
さらに、あらかじめ基準を明文化しておくことで、役員間の不公平感をなくす効果もあります。特定の役員だけが特別に厚遇されたように見える事態を防ぎ、企業の内部統制や信頼性を高めます。
また、株主総会で支給の方針を決議し、具体的な金額の決定を取締役会に委任する場合でも、規程があれば計算基準が明確になるため、取締役会での判断がスムーズかつ一貫性を持って行えます。
6.終わりに
役員退職金は、会社の重要な意思決定事項であり、税務上も注目されやすい支出です。規程がなくても支給は可能ですが、規程を備えることで説明の負担を軽減し、対外的な客観性を高めることができます。
事前にルールを定めておくことは、支給の公平性と透明性を確保し、将来のトラブル防止にもつながります。役員退職金の制度設計にあたっては、規程の有無だけでなく、算定基準や手続の適正さを総合的に整えることが重要です。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
弊事務所では、顧問税理士、税務に関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。
