M&AにおけるDDとは? 第四回_デューデリジェンス結果の活用とM&A戦略への反映
2025年10月21日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
デューデリジェンスはM&Aにおいて不可欠な調査ですが、調査をするからにはその結果をどのように利用するかが重要です。最終的な目的は、得られた情報を投資判断や戦略立案に活かすことにあります。調査結果をどう整理し、どのように意思決定に反映させるかによって、M&Aの成否は大きく左右されます。
本稿では、デューデリジェンスの結果を実際のM&Aプロセスに活用する方法と、その戦略的な意義について解説します。
2.デューデリジェンス結果の整理とレポーティング
デューデリジェンスの調査結果は膨大な量に及びます。
そのため、単なる情報の羅列ではなく、経営層や意思決定者が理解しやすい形で整理・分析し、レポーティングすることが重要です。
具体的には、財務、法務、人事労務、IT、環境といった分野ごとにレポーティングを行うことや、リスクを分類し重要度や影響度に応じて整理するといったアプローチも有効です。
影響が軽微なものは「参考情報」として扱い、重大なリスクは「経営判断に直結する論点」として明確に区分することが望まれます。こうした整理を行うことで、意思決定者が限られた時間で重要なポイントを把握でき、適切な判断につなげやすくなります。
3.価格調整・契約条件への反映
デューデリジェンスで判明したリスクは、買収価格や契約条件に直結します。例えば、簿外債務や未払残業代、環境関連の原状回復義務などが見つかった場合、通常、その分を価格調整に反映し価格交渉を行います。
一方で、リスクの影響額を試算できる場合には買収価格に反映されますが、必ずしも価格調整が必要となるわけではありません。金額を試算できないリスクや、普遍的にカバーしておくべきリスクについては表明保証(Representation & Warranty)や補償条項(Indemnity Clause)を活用してリスク低減を図ることもあります。また、多くの場合は価格調整を検討すべき発見事項が出てきますが、中には価格調整を全く行わずに済むケースもあります。M&Aの取引条件は意向表明や基本合意時に確定しているものではなく、状況に応じて変化します。
さらに、特定の課題が解決されることをクロージング条件とし、それが満たされなければ取引を成立させない仕組みを導入することもあります。このように、デューデリジェンス結果は契約交渉に直結し、交渉力や取引条件の有利不利を左右する極めて重要な材料となります。
4.M&Aの実行可否判断
デューデリジェンスの結果、許容できないリスクが判明することもあります。例えば、大規模な訴訟リスクや致命的なコンプライアンス違反、将来的に多額の費用負担を強いるような環境問題、巨額の簿外債務が見つかった場合、M&Aを中止することが最適な判断となることもあります。
M&Aに関するコストは調査や交渉、専門家費用などで大きくなりがちであり、ある意味「もったいない」と感じることもあるかもしれません。しかし、これらの背景を理由に取引を強行するべきではありません。
重要なのは、「調査を行ったのだからM&Aを成立させなければならない」という発想に陥らないことです。リスクが企業価値や事業継続性に与える影響を冷静に見極め、場合によっては中止の判断を下すことも経営における重要な選択肢の一つです。
5.PMI(統合プロセス)への活用
デューデリジェンスの結果は、買収価格や契約条件の調整だけでなく、PMI(Post Merger Integration、統合プロセス)の設計にも活用されます。
例えば、人事労務デューデリジェンスで労務管理の不備が見つかれば、統合後の人事制度や労働環境の改善に直結します。ITデューデリジェンスでシステムの老朽化やセキュリティリスクが判明した場合は、統合プロセスでシステム刷新やセキュリティ強化を優先課題とする必要があります。
また、買い手企業が上場会社であれば、買収先が連結範囲に含まれることとなるかもしれません。その場合には、連結に組み込むための決算体制整備や内部統制の整備もPMIを通じて対応することが求められます。こうした活用により、M&A後の統合作業を円滑に進め、シナジー効果を実現しやすくすることができます。
デューデリジェンスで得られた知見をPMIに反映することは、M&A成功の重要な要素といえるでしょう。
6.終わりに
デューデリジェンスの本質は、調査作業そのものではなく、その結果を投資判断や戦略立案に結びつけることにあります。調査結果を正しく整理し、契約条件や価格に反映させるだけでなく、場合によってはM&Aを中止する判断を下すことも、経営の健全性を守るためには重要です。
さらに、得られた知見をPMIに活用することで、M&Aの成果を最大化し、長期的な企業価値向上につなげることができます。デューデリジェンスは単なる形式的な調査ではなく、M&A戦略を支える中核的なプロセスであることを改めて認識する必要があります。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
本稿と関連するテーマのコラムは以下の通りです。是非、以下の記事もご覧ください。
- M&AにおけるDDとは? 第一回 デューデリジェンス(Due Diligence)の概要と全体像
- M&AにおけるDDとは? 第二回_財務デューデリジェンス(Financial Due Diligence)と税務デューデリジェンス(Tax Due Diligence)の進め方
- M&AにおけるDDとは? 第三回_財務以外のデューデリジェンスの目的と概要
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