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2026年02月12日
税務会計-COLUMN-

退職直前で定期同額給与(月額報酬)を引き上げた場合の役員退職慰労金の損金算入限度額の取扱い

2026年2月13日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

役員退職慰労金(役員退職金)は、実務上、功績倍率法と呼ばれる方法によって計算されることが多く、最終の役員報酬月額に在任年数、功績倍率を掛け合わせて算定する方法が広く利用されています。

計算構造上、基礎数値である最終月額の役員報酬が高いほど、掛け算の結果として退職金も大きくなります。だからこそ、退任直前に最終月額を引き上げれば退職金を増やせるという考えに繋がりやすいのですが、在任期間全体の功績に対する報償という性格を持つことから、単に計算式の掛け目を膨らませるような操作は、合理性の説明が伴わない限り、税務上受け入れられない可能性があることに注意が必要です。

本稿では、実務で広く使われる計算方法の位置付けと、退任直前の引き上げに潜むリスク、許容され得る場面、そして対外的にも客観性をもって説明するための文書化の要点を整理します。


2.役員退職金の計算方法

前述の通り、功績倍率法という方法が広く利用されています。
月額の役員報酬に在任年数や職責などを反映した倍率を掛けて算定する考え方で、実務や判例等でも参照される場面があり、一定の算定基準として機能しています。ただし、功績倍率法は法令上の唯一の方法ではありません。同様に、月額の役員報酬についても、最終月額報酬をベースにすることも法令で唯一の方法として指定されているわけではないことを念頭に置く必要があります。

実務上、同業の類似会社の水準を参照する方法や、在任期間の平均的な役員報酬を基礎に据える方法など、実態をより適切に表すと考えられる別のアプローチが採用されることがあります。重要なのは、選択した方法が役員の貢献と会社の事情を適切に反映し、対外的な説明が可能であることです。


3.最終報酬月額を退任直前に引き上げる税務リスク

(1)税務上の要請

税務上、不相当に高額な部分は損金と認められません。ここで注意して頂きたいのは、現役期の役員報酬(定期同額給与)で許容された水準だからといって、その延長で退職金も無条件に受け入れられるわけではないという点です。

退職金は最終期の水準だけで決まる性質のものではなく、全期間の貢献との整合が問われます。従って、退任直前のみの引き上げで最終的な計算結果が不相当に高額となる場合、超過部分は認められない可能性があるのです。

(2)税法は功績倍率の方法を指定しているわけではない

功績倍率法は広く認知され実務で多用されるため一種のデファクトスタンダードと捉えることが出来ますが、法令上の唯一の方法ではありません。同様に、最終月額を計算基礎にすることも絶対的な方法であるとはいえません。
会社の実情によっては、社内規程等を踏まえ、同業の類似会社の相場を踏まえる方法など、合理的に説明できる別法を選ぶことが適切となる場合があります。要するに、不相当に高額な部分はどのような方法によっても損金として認められないということであり、この計算方法を逆手に取った方法は否認されるリスクが付きまとうということで

(3)明らかな租税回避行為は否認される可能性

退任直前に不自然な引き上げを行い、事業上の必要性や職責の変化と結び付かないまま退職金を過度に増やす取扱いは、企業の類型にかかわらず否認される可能性があります。規模や株主構成の別を問わず、課税の公平を害する明白な回避行為は是認されません。


4.最終報酬月額の引き上げが認められる場合

(1)引き上げた結果が不相当に高額ではない

役位や職責の拡大、重要プロジェクトの統括、経営管理の高度化など、職務実態の変化に裏付けられた見直しであり、退職金の水準が在任期間の功績に見合い、同業他社や自社の収益力との整合がとれている場合は、直ちに問題となるわけではありません。
ただし、役員自身が「相当」と考えるのではなく、客観的に「相当」でなければなりません。

(2)不相当の程度は定数化不可

税務上の不相当なラインについて画一的な基準値はありません。
これが実務上の取扱いを難しくするのですが、例えば、対象役員の高齢化や健康上の事情などによって退任年度の関与が相対的に減り、最終月額も引き下げられた場合、在任期間に対して最終月額報酬は低すぎるというケースもあります。
このような場合、在任期間中の役員報酬の平均額を採用する等、最終月額に機械的に依拠しない補正が適切と考えられます。大切なのは、選択した基礎額が全期間の功績をより適切に反映していると説明できることです。

(3)同業の類似業種の報酬水準も参考にできる

法令上、過大か否かの判断に当たり、同種同規模会社の水準に関して言及されています。
業界統計や調査データを用いることが出来る場合には、これらの情報を基に金額を決定することで外形的な妥当性が高まります。

(4)引き上げを行う場合の理由と根拠の文書化

対外的に客観性をもって説明できるよう、次の事項に着目して体系的に整備しておくことをお勧めします。
全ての文書が必須というわけではありませんが、総合的に金額水準が妥当か否かは説明できるようにしておくのが良いでしょう。

・役員報酬規程や退職金規程などの内部規定との整合性
・役位変更や職責拡大、成果指標の達成など引き上げの具体的理由の明示
・同業類似会社の水準などの客観資料の提示
・採用した計算方法の選定理由と、他の方法を検討した経緯の記録
・取締役会や報酬委員会での審議過程の記録化

さらに、退任の理由が任期満了や事業承継、健康上の事情などである場合は、その事情も含めて整合的に説明できるようにしておくことが有効です。


5.終わりに

最終月額の役員報酬を上げれば退職金が増えるという計算構造は事実ですが、計算式だけに着目してルールを逆手に取ると、過大と判断される部分が認められず、思わぬ負担や信用低下を招くおそれがあります。

退職金は在任期間全体の功績に対する報償として、方法の選択と基礎額の妥当性を総合的に設計し、同業比較や在任平均、社内規程、決定過程の記録を通じて対外的にも説明可能な体制を整えることが重要です。本稿が、役員退職金を決める際の一助となれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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