未払給与は税務上損金算入できる? 税務上の債務確定主義と会計上の発生主義の関係を解説
2026年6月19日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに
企業会計では、期間損益を適切に計算するため、費用は発生主義に基づいて認識する必要があります。給与についても、実際の支給日で費用処理するのではなく、原則として従業員から労務提供を受けた期間に対応して費用計上することが求められます。
一方、税務上(法人税)は、事業年度終了の日までに債務が確定しているかどうかを重視しています。
この点、決算日時点で未払いとなっている給与に関する取扱いをどのように整理するか疑問に思われたことはないでしょうか。
本コラムでは、未払給与の会計上の取扱いを確認したうえで、税務上どのように扱われるのか、債務確定主義との関係を中心に解説します。
2.未払給与の会計上の取扱い
(1)労務提供に対応する給与費用
会計上、給与は発生主義に従い、従業員から労務提供を受けた期間に対応して費用計上する必要があります。
たとえば、20日締め翌月5日払いの会社で3月決算の場合、3月21日から3月31日までの給与は、まだ給与計算の締め日が到来していないため、3月末時点では支給額が確定していないことがあります。しかし、従業員は3月21日から3月31日までの期間にすでに労務提供を行っています。そのため、会計上は、この期間に対応する給与を当期の費用として認識し、未払給与として処理する必要があります。
仕訳例は以下のとおりです。
(給与手当)XXX/(未払給与)XXX
なお、上記の未払給与が消えるタイミングは、翌期に実際の給与支給額が確定した段階で未払計上額との差額を調整する方法や、期首に未払計上額を洗い替える方法などの方法があります。
(2)給与の計算期間(締め日)と発生主義
給与計算では、月末締め翌月払い、20日締め当月末払い、15日締め翌月5日払いなど、会社ごとに締め日と支給日が異なります。
当月末締め(月末が給与計算の締め日)のように、決算日までの給与を決算日までに支給するケースでない限り、給与の締め日から期末までの間に、従業員が労務提供を行っている期間が生じる方が一般的でしょう。
たとえば、20日締め翌月5日払いの会社で3月決算の場合、3月21日から3月31日までの勤務に対応する人件費は、まだ給与計算の締め日が到来していないため、通常は3月中に確定も支給もされていません。しかし、従業員は3月21日から3月31日までの期間に労務提供を行っているため、会計上はこの期間に対応する人件費を当期の費用として処理する必要があります。
前述の通り、実務上、すべての給与を月末に締めて支払うことは難しく、決算日時点で未払給与は発生することの方が多いでしょう。特に時間外手当の計算には勤怠情報の確定も必要ですので、人事部等の給与計算部署側で急げばよいとうものでもありません。
これは会計上の発生主義の基本的な考え方ですが、会計上費用計上できることと、税務上損金算入できることは必ずしも同じではありません。税務上は、債務が確定しているかどうかが重要になります。
3.未払給与の税務上の基本的な考え方
(1)法人税における損金算入の考え方
① 会計上の費用計上と税務上の損金算入
会計上は、適正な期間損益計算を行うため、発生主義に基づいて費用を認識します。一方で、法人税では、会計上費用処理したものがそのまま全て損金算入できるとは限りません。
未払給与についても、会計上は給与費用として処理していても、税務上はその給与債務が事業年度末までに確定しているかを確認する必要があります。
通常の月次給与については、会計上費用処理されていることを前提として、雇用契約、就業規則、給与規程、勤怠記録などに基づき、決算日までに従業員が労務提供を終えており、支給額を合理的に計算できる場合には、税務上も損金算入が認められるものと考えられます。
② 損金算入時期の判断
損金算入時期を判断する際には、支給日ではなく、事業年度末までに債務が確定しているかを確認します。
たとえば、給与計算期間が月末締めであれば、決算日時点でその月の勤務が完了しており、且つ、給与規程や給与計算資料により金額を算定までが完了しているため、通常は決算月のすべての期間の給与を当期の損金として扱うことが出来るものと考えられます。
一方、金額が単なる見込みにとどまるものや、支給するかどうかが決算日時点で確定していないものについては、税務上の損金算入が認められない可能性があります。
(2)債務確定主義との関係
① 税務上、債務が確定しているかが重要
法人税における債務確定主義では、原則として、事業年度末までに債務が確定している費用が損金算入の対象となります。
給与に当てはめると、従業員が実際に勤務していること、会社に給与支払義務が生じていること、給与計算により金額を算定できることが重要です。そのため、単に「翌月に給与を支払う予定がある」というだけではなく、決算日時点でどこまで労務提供が完了しているか、その対価としていくら支払う義務があるかを確認する必要があります。
② 具体的な債務確定の要件
前述の債務が確定しているかどうかは、主に次の3つの要件の充足が求められています。
- 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること
- 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること
- 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること
なお、以降の解説では、該当給与が会計上費用処理されていることを前提としています。
4.従業員給与の未払計上が認められる場合
(1)様々な人件費と概算計上
①基本給
基本給は、雇用契約書、労働条件通知書、給与規程などにより月額が定められていることが一般的であり、固定額の性格を持ちます。このような場合、決算日時点で従業員が労務提供を行っており、給与計算期間に対応する金額を日割り計算や所定の計算方法で算定できる場合には、債務が確定しているものと考えて良いでしょう。
たとえば、20日締め翌月5日払いの会社で3月決算の場合、3月21日から3月31日までの勤務に対応する基本給を未払計上するケースがあります。この場合、月額の固定給を基礎として、決算日までの期間に対応する部分を日割り計算することで、確定した基本給部分の金額を計算することが可能と考えられます。
②時間外手当
時間外手当は、実際の残業時間や深夜勤務、休日勤務の有無により金額が変動します。
そのため、締め日から期末までの残業時間を勤怠システム、タイムカード、残業申請書などによって把握できており、尚且つ具体的な時間数に基づいて時間外手当の計算が出来ている場合、債務確定主義に照らしても損金算入は可能であると考えられます。
一方、直近月の残業代実績から概算値を計上するような処理は、税務上損金算入は認められない可能性が高いといえます。一口に概算と言っても計上根拠の相当程度に幅があり、見積りの精度が高い場合には損金算入が可能なケースはあると思いますが、単に「前月と同程度」のような概算計算では債務確定主義に反する可能性が高まります。
筆者の経験則にもよりますが、時間外手当をその計算期間の途中で算定することはあまり一般的ではなく、給与計算締め日から期末日の間の未払時間外手当を概算計上している企業もあると思います。そのような場合、税務上否認される可能性がある点に注意が必要です。
③社会保険料(法定福利費)
社会保険料(法定福利費)については、給与そのものとは少し性質が異なります。
健康保険料や厚生年金保険料は、事業主が従業員負担分を給与から差し引き、事業主負担分とあわせて納付します。事業主負担分は費用となりますが、これを納付時点で費用処理をしている場合、決算日時点で費用計上がされていないケースがあります。しかし、会計上は社会保険料も発生主義に従う必要があることから、納付をしていなかったとしても、期末までに発生している金額は費用計上する必要があります。
この点、税務上債務確定主義によることも変わりません。そのため、会社負担額を正確に把握できる場合には、債務が確定しているものと考えられます。
たとえば、納入告知書や領収済通知書、給与計算システムの計算結果などにより、会社負担分の社会保険料を精緻に計算できている場合には、確定債務として扱える可能性は高いと考えられます。
一方、未払給与に一定率、たとえば15%を乗じるなどして概算計上している場合には、対象者ごとの標準報酬月額や保険料率、資格取得や資格喪失の状況などを反映した計算とはいえないため、確定債務と認められない可能性があります。
④各種手当
各種手当については、その内容によって判断が異なります。
たとえば、役職手当、資格手当、住宅手当など、毎月固定額で支給される手当については、給与規程や支給条件に基づいて金額が明確であれば、基本給と同様に債務が確定しているものと考えられます。
一方、歩合性の手当、インセンティブ、臨時手当、業績連動手当など金額が変動する可能性のある手当については、その計算が決算締めまでの間に正確に行える場合を除き、損金算入は難しいものと思われます。
ただし、これらの変動要因を把握でき、且つ期末日までに発生したそれらの要因に基づき手当の計算が出来ているのであれば損金算入できる可能性はあります。
5.終わりに
未払給与は、会計上は発生主義に基づき、従業員の労務提供に対応する期間の費用として認識します。一方で、税務上は、事業年度末までに債務が確定しているかを確認する必要があります。
基本給のように固定額で計算できるものは未払計上が認められやすいものと考えられますが、時間外手当や変動手当などは実際の勤務実績や支給条件に基づいて正確に計算できなければ債務確定とは言えず、損金算入を否認される可能性があることに注意が必要です。
決算実務上、決算日から申告迄の間には一定の期間があります。
その間に確定値を算定できる場合もありますので、決算スケジュールとの兼ね合いを加味することも重要です。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
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