M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の重要性 デューデリジェンスとは、その意味や効果をわかりやすく解説
2026年5月25日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
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1.はじめに
近年、企業の成長戦略や事業承継の手段として、M&Aに対する関心が高まっています。
M&Aは、新たな事業領域への進出、既存事業とのシナジー創出、人材・技術・顧客基盤の獲得などを実現する有効な手段である一方、買収対象会社の実態を十分に把握しないままM&Aを実行した場合、想定外の債務、収益力の低下、労務問題、契約上の制約、税務リスクなどが後日判明し、当初期待していた成果を得られない可能性があります。
このようなリスクを把握し、M&Aの意思決定に必要な情報を収集・分析する手続が、デューデリジェンス、いわゆるDDです。
デューデリジェンスは、直訳すれば「当然払うべき注意」や「相当な注意」といった意味を持ちます。M&Aにおいては、買収対象会社の財務、税務、法務、事業、人事労務などの状況を多面的に調査し、買収の可否、買収価格、契約条件、買収後の経営統合方針を検討するために実施されます。
時間や予算の制約を理由に、デューデリジェンスを十分に実施しないケースも見受けられます。しかし、デューデリジェンスを省略することは、買収対象会社に内在するリスクを把握しないまま取引を進めることを意味します。
M&Aにおいてリスクをゼロにすることはできませんが、デューデリジェンスを通じてリスクを認識し、価格や契約条件に反映させることで、失敗の可能性を低減することができます。
2.M&Aの意思決定の質を高める役割
デューデリジェンスは、主に買い手が売り手または買収対象会社の実態を把握するために実施されます。
M&Aを実行するにあたって、売り手と買い手の間に大きな情報格差が存在します。
売り手は自社の財務状況、取引関係、組織体制、潜在的な問題点を把握している一方、買い手は限られた資料や説明に基づいて判断せざるを得ません。特に、非上場会社の場合、上場会社のような継続的な情報開示義務がないため、外部から得られる情報はさらに限られます。
そのため、買い手はデューデリジェンスを通じて、買収対象会社の実態を確認し、買収する価値があるか、想定している買収価格が妥当か、買収後にどのようなリスク対応が必要かを検討します。
また、デューデリジェンスの結果は、単に買収の可否を判断するためだけのものではありません。発見されたリスクや課題は、最終契約における表明保証、補償条項、クロージング条件、価格調整条項などに反映されることがあります。さらに、買収後の事業計画や経営統合、いわゆるPMIの設計にも重要な情報を提供します。
このように、デューデリジェンスはM&Aの意思決定の質を高めるための重要なプロセスなのです。
3.M&Aにおけるリスクを低減する役割
M&Aには、常に一定のリスクが伴います。
たとえば、買収後に以下のような問題が判明することがあります。
- 売上や利益の水準が一時的な要因によって押し上げられていた
- 回収可能性に問題のある売掛金や滞留在庫が存在していた
- 簿外債務や偶発債務が存在していた
- 未払残業代などの労務リスクが存在していた
- 重要な取引先との契約に解除条項やチェンジ・オブ・コントロール条項が含まれていた
- 過年度の税務処理に問題があり、追徴課税リスクがあった
- 買収後に期待していたシナジーが実現しなかった
売り手が意図的に不都合な情報を開示しないケースもあれば、売り手自身が問題を十分に認識していないケースもあります。そのため、M&Aでは、売り手の説明をそのまま前提とするのではなく、資料の確認、ヒアリング、分析を通じて、可能な限り客観的に実態を把握する必要があります。
もっとも、デューデリジェンスを実施すれば、すべてのリスクを発見できるわけではありません。デューデリジェンスは、限られた期間、限られた資料、限られた調査範囲の中で実施される手続です。そのため、発見できるリスクには限界があります。
重要なのは、デューデリジェンスによってリスクを完全に排除することではなく、重要なリスクを把握し、買収価格、契約条件、買収後の対応方針に適切に反映することにあります。
4.買収後のスムーズな経営統合への活用
M&Aは、契約締結やクロージングがゴールではありません。むしろ、M&A後にどのように経営統合を進め、期待した成果を実現するかが重要です。
買収後の経営統合は、PMIと呼ばれます。PMIでは、経営方針、組織体制、会計・管理体制、人事制度、業務プロセス、システム、取引先対応など、幅広い領域で統合・改善を進める必要があります。
デューデリジェンスは、このPMIを円滑に進めるためにも重要です。
たとえば、財務デューデリジェンスで月次決算の精度に問題があることが判明した場合、買収後に管理会計体制や決算体制を整備する必要があります。人事労務デューデリジェンスで就業規則や労働時間管理に課題があることが判明した場合、買収後に労務管理体制を見直す必要があります。事業デューデリジェンスで特定の取引先への依存度が高いことが判明した場合、買収後の営業戦略やリスク分散策を検討する必要があります。
このように、デューデリジェンスは、買収前のリスク把握だけでなく、買収後に何を優先的に改善すべきかを明確にする役割も果たします。
5.デューデリジェンスの主な種類
デューデリジェンスは、調査対象となる分野によって複数の種類に分類されます。
実務上、デューデリジェンスという言葉が財務デューデリジェンスを指して使われることもありますが、本来は財務に限られるものではありません。M&Aの目的、対象会社の規模、業種、取引スキーム、想定されるリスクに応じて、必要な領域を組み合わせて実施します。
主なデューデリジェンスの種類は、以下のとおりです。
(1)財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスは、買収対象会社の財務状況を分析する手続です。
主な調査対象は、正常収益力、財政状態の把握であり、運転資本、借入金、簿外債務、偶発債務、売掛金の回収可能性、棚卸資産の評価、固定資産の実在性・減損リスクなどを確認します。
財務デューデリジェンスでは、決算書の数値を実態に近い形に近づける役割があると思うと分かりやすいかもしれません。たとえば、回収可能性のない売掛金に対する引当や、価値が下落している資産の減損等を行います。正常収益力の算定においては、一過性の利益や費用、オーナー企業特有の役員報酬、関連当事者取引などを調整し、実態ベースの収益力を把握することを行います。
財務デューデリジェンスの結果は、企業価値評価、買収価格の交渉、価格調整条項の検討などに大きな影響を与えます。
(2)税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスは、買収対象会社の税務処理や税務リスクを確認する手続です。
法人税、消費税、源泉所得税、地方税などの申告内容を確認し、過年度の税務処理に問題がないか、将来的に追徴課税が発生する可能性がないかを検討します。
特に、オーナー企業や中小企業では、役員・株主との取引、グループ会社間取引、交際費、役員給与、寄附などに税務上のリスクが含まれていることがあります。税務リスクが発見された場合には、買収価格への反映、補償条項の設定、取引スキームの見直しなどを検討する必要があります。
(3)法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは、買収対象会社の法的リスクを確認する手続です。
主な調査対象は、株式関係、定款、議事録、重要契約、許認可、訴訟・紛争、知的財産権、コンプライアンス、個人情報保護、反社会的勢力との関係の有無などを調査します。
特にM&Aでは、重要契約の内容確認が重要です。契約によっては、株主の変更や経営権の移動があった場合に、相手方が契約を解除できる条項が含まれていることがあります。このような条項は、チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)と呼ばれ、買収後の事業継続に大きな影響を与える可能性があります。
(4)事業デューデリジェンス
事業デューデリジェンスは、買収対象会社の事業内容、市場環境、競争優位性、収益構造、成長可能性などを分析する手続です。
財務数値が良好であっても、その背景にある事業基盤が弱い場合、買収後に業績が悪化する可能性があります。たとえば、特定の顧客や仕入先に依存している、主要な経営者や営業担当者に売上が集中している、市場自体が縮小傾向にある、といった場合には注意が必要です。
事業デューデリジェンスでは、買収後に期待されるシナジーが現実的かどうか、買収後の事業計画に無理がないかを検討します。
(5)人事労務デューデリジェンス
人事労務デューデリジェンスは、従業員構成、人事制度、就業規則、労働時間管理、給与制度、社会保険、退職給付、労使関係などを確認する手続です。
実務上、問題となりやすい論点の一つに未払残業代があります。労働時間の管理が不十分であったり、管理監督者の範囲が不適切であったりする場合、買収後に追加の人件費負担が発生する可能性があります。
また、キーパーソンの退職リスク、人事制度の統合、処遇格差、企業文化の違いなども、買収後のPMIに大きな影響を与えます。
なお、労務問題は、案件によって法務デューデリジェンスの中で確認されることもあります。
(6)環境デューデリジェンス
環境デューデリジェンスは、買収対象会社の環境リスクを確認する手続です。
特に、製造業、不動産関連業、化学物質を取り扱う事業、工場や土地を保有する会社では、土壌汚染、排水、廃棄物処理、アスベスト、環境規制への対応状況などが問題となることがあります。
環境リスクは、発見が遅れると多額の是正費用や損害賠償につながる可能性があるため、対象会社の業種や保有資産によっては重要な調査項目となります。
(7)IT・システムデューデリジェンス
近年では、IT・システムデューデリジェンスの重要性も高まっています。
基幹システム、販売管理システム、会計システム、情報セキュリティ、サイバーリスク、個人情報管理、システム保守体制などを確認し、買収後の統合や運用に支障がないかを検討します。
例えば、売り手企業のセキュリティレベルが買い手企業にとって許容できない水準であった場合、買収後の追加コストが必要になる可能性があります。そのような場合、トータルの支出額が想定を超えたり、それにより買収企業の収益性が低下したりする可能性があります。
また、システムが属人的に運用されている場合、特定の担当者の退職によって業務継続に支障が生じる可能性があります。
6.デューデリジェンスの進め方
デューデリジェンスは、限られた期間の中で実施されるため、事前に調査範囲と優先順位を明確にすることが重要です。一般的な進め方は、以下のとおりです。
① デューデリジェンス計画の策定
まず、M&Aの目的、取引スキーム、対象会社の業種・規模、想定されるリスクを踏まえて、調査範囲を決定します。
すべての領域を詳細に調査することが理想ではありますが、実務上は時間や費用の制約があります。そのため、重要性の高い領域を見極め、重点的に調査することが必要です。
② 事前資料の入手・分析
次に、対象会社から決算書、税務申告書、総勘定元帳、月次試算表、契約書、株主名簿、組織図、就業規則、許認可資料などの資料を入手します。入手した資料を検証、分析し、不明点や追加確認が必要な事項を整理します。
③ 質問事項の提出
資料分析の結果を踏まえて、対象会社に質問事項を提出します。
質問事項は、単に不足資料を依頼するだけでなく、数値や契約内容の背景、取引の実態、会計処理の理由、リスクの有無などを確認するために行います。
最近では直接質問を行うのではなく、事前に質問事項を仲介業者やFAなどと共有し、回答を得る形式が増えているように思います。
④ 現地調査・マネジメントインタビュー
必要に応じて、現地調査や経営陣・担当者へのヒアリングを実施します。
資料だけでは把握できない実態を確認するためには、現場の状況、業務フロー、在庫管理、内部管理体制、経営者の考え方などを直接確認することが有効です。
⑤ 分析・評価・レポ―ティング
収集した情報をもとに、リスクの内容、金額的影響、発生可能性、買収価格や契約条件への影響、買収後の対応方針などを検討します。重要な論点については、財務・税務・法務・事業などの各専門家が連携し、総合的に評価する必要があります。
⑥ レポーティング・報告書の提出
最後に、デューデリジェンスの結果を報告書(レポ―ト)として取りまとめます。
デューデリジェンスの調査結果はボリュームが多くなることが多く、報告書では、発見事項を単に列挙するだけでなく、重要性やその影響などを記載することが重要です。買い手はこの報告書をもとに、M&Aを実行するか、買収価格を見直すか、契約条件を修正するか、または取引を中止するといった意思決定の判断材料に使用します。
7.デューデリジェンスを実施する際の留意点
(1)調査範囲を明確にする
デューデリジェンスを実施する際には、調査範囲を明確にすることが重要です。
調査範囲が曖昧なまま進めると、重要な論点が見落とされたり、反対に重要性の低い事項に時間を費やしたりする可能性があります。
特に、M&Aでは限られた期間の中で判断をしなければならないことも多いため、事前に調査目的、対象期間、対象資料、重要性の基準を整理しておく必要があります。
(2)専門家を適切に活用する
M&Aを日常的に行っている会社は多くありません。一方で、M&Aに必要とされる知識は、財務、税務、法務、労務、事業、ITなど多岐にわたり、高い専門性が求められます。
そのため、社内リソースだけでデューデリジェンスを完結させることは容易ではありません。公認会計士、税理士、弁護士、社会保険労務士、M&Aアドバイザー、コンサルタントなど、案件に応じて適切な専門家を活用することが重要です。
(3)情報管理を徹底する
デューデリジェンスで取り扱う情報は、極めて機密性の高い情報です。
対象会社の財務情報、顧客情報、契約情報、人事情報だけでなく、M&Aを検討しているという事実そのものも機密情報に該当します。情報が外部に漏えいした場合、従業員、取引先、金融機関などに不安を与え、M&Aの実行に支障をきたす可能性があります。
そのため、デューデリジェンスを開始する前に秘密保持契約を締結し、情報へのアクセス権限、資料の保管方法、外部専門家への共有範囲などを明確にしておく必要があります。
(4)DDの結果を契約条件やPMIに反映する
デューデリジェンスは、実施すること自体が目的ではありません。
重要なのは、デューデリジェンスで把握した事項を、買収価格、契約条件、買収後の対応に反映することです。
たとえば、未払残業代のリスクがある場合には、買収価格の調整、補償条項の設定、クロージング前の是正対応などを検討します。主要取引先との契約継続に不確実性がある場合には、クロージング条件として相手方の同意取得を求めることも考えられます。
また、買収後に改善すべき事項については、PMIの実行計画に反映し、優先順位をつけて対応する必要があります。
8.終わりに
M&Aの成功確率を高めるためには、買収対象会社の実態を十分に把握することが不可欠です。そのための重要な手続が、デューデリジェンスです。
デューデリジェンスは、買収対象会社のリスクを把握するだけでなく、買収価格の妥当性を検討し、契約条件を設計し、買収後の経営統合を円滑に進めるための基礎情報を提供します。
一方で、デューデリジェンスには限界もあります。限られた時間と資料の中で実施されるため、すべてのリスクを完全に発見できるわけではありません。そのため、重要なリスクを見極め、発見事項をどのように意思決定や契約条件に反映するかが重要です。
M&Aを検討する際には、案件の規模や目的に応じて適切な範囲のデューデリジェンスを実施し、必要に応じて専門家の助言を受けながら慎重に判断することが望まれます。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
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