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2026年08月10日
企業会計-COLUMN-

【図解】実際原価計算と標準原価計算の計算手順と計算構造の違い 原価計算早期化、原価計算のステップについて解説

2026年8月10日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

在庫金額の計算や経営分析、コスト管理において重要な役割を担う原価計算には、実際原価計算・予定原価計算・標準原価計算といった方法があります。

原価計算に携わる方であれば、これらの用語を一度は耳にしたことがあるのではないかと思いますが、それぞれの原価計算方法によって計算手順や作業効率が大きく異なることは、必ずしも十分に意識されていません。

本稿では、実際原価計算・予定原価計算・標準原価計算の「単価」と「数量」の組合せに着目し、それぞれの計算手順と効率性、原価計算早期化への影響について解説します。なお、原価計算基準上の制度区分は「実際原価計算制度」と「標準原価計算制度」の2つであり、本稿の予定原価計算は前者に含まれる一形態である点に留意してください。


2.実際原価計算の計算手順(単価:実際 × 数量:実際)

(1)実際原価計算の概要

実際原価計算は、その名のとおり、実際に発生したコストを製品に割り当てる方法です。
実際発生額を忠実に反映できる点に特徴があります。ただし、操業度や価格の変動、異常値もそのまま単価に取り込むため、平常時の原価としての代表性は、かえって劣ることがある点には留意が必要です。

本稿では各原価計算方法を比較するため、材料費・労務費などの原価を「単価」と「数量」に分解して考えます。
なお、製造間接費等の固定費については、厳密には単価・数量の二要素に単純分解できない部分もありますが、説明を平易にするため、本稿では詳細な論点を割愛します。

実際原価計算を「単価」と「数量」に分類すると、次のように整理できます。

単価:実際
数量:実際

本稿では、「単価」「数量」のいずれも実績値を用いる方法を「実際原価計算」と呼称します。

(2)原価計算の手順

実際原価計算では、すべての費目について実際発生額が確定した後でなければ、原価計算に着手できません。
そのため、どうしても後追いの計算となり、原価計算に時間を要する傾向があります。

実際原価計算の作業ステップは、概ね次のとおりです。

ステップ① 各原価項目の残高確定
材料費・労務費・製造間接費など、各原価項目について伝票入力・集計を行い、当期の実際発生額を確定させます。なお、実務上、実際原価計算であっても製造間接費は予定配賦率を用いることがあります。これは、実際配賦とすると操業度の変動によって配賦単価が大きくぶれやすいためす。

ステップ② 仕掛品の計算
確定した各原価項目を仕掛品勘定に集約し、期首仕掛品と当期投入額を踏まえて、期末仕掛品の評価額を計算します。
実際原価計算では各費目の実績値が固まるまでこのステップはスタート出来ません。

ステップ③ 製品・製品原価の計算
完成品に対応する仕掛品原価を製品勘定へ振り替え、当期製品製造原価および期末製品在庫の原価を算定します。

ステップ④ 売上原価確定
期首製品在庫と当期製品製造原価から期末製品在庫を控除し、損益計算書に計上する売上原価を確定させます。

このように、各費目の残高が固まってから順番に仕掛品、製品、売上原価へと計算を進めていくため、分かりやすいですが前工程の遅れがそのまま後工程に波及しやすいのが実際原価計算の特徴です。
また、伝票が一本でも漏れていれば原価計算結果に影響が出るため、場合によってはやり直しが必要になる点にも注意が必要です。

【参考】 実際原価計算の作業ステップ概要図(単価:実際 × 数量:実際)


3.予定原価計算の計算手順(単価:予定×数量:実際)

(1)予定原価計算の概要

予定原価計算では、製品・棚卸資産には予定額が計上され、差異処理を通じて損益計算書全体としては実際発生額が反映される点で、実際原価計算と整合します。

これにより、原価計算の早期化・効率化が可能になります。

予定原価計算を「単価」と「数量」に分類すると、次のように整理できます。

単価:予定
数量:実際

なお、予定原価計算は、実質的には実際原価計算制度の一形態と位置づけられます。 原価計算基準上の制度区分は「実際原価計算制度」と「標準原価計算制度」の2つであり、本稿の予定原価計算は前者に含まれる一形態である点に留意してください。

(2)原価計算の手順

予定原価計算では、各費目の実際金額がすべて確定する前でも原価計算を開始できます。
あらかじめ設定した予定単価を用いるため、材料消費量や作業時間などの実際数量が確定すれば、仕掛品や製品の計算に着手できるからです。

予定原価計算の作業ステップは、概ね次のとおりです。

ステップ① 各原価項目の残高確定
通常通り製造原価に関する伝票起票を行い、各費目(原価項目)の実際発生額を確定します。
この実際発生額の残高はステップ④にて原価差異の把握に利用します。

ステップ② 仕掛品の計算
実際原価の集計に並行して仕掛品の計算を開始します。
実際の生産数量や材料消費量、作業時間など、数量情報が確定した段階で、予定単価×実際数量により仕掛品原価を計算します。

ステップ③ 製品・製品原価の計算
完成品に対応する予定原価を製品勘定に振り替え、当期製品製造原価および期末製品在庫の予定原価を算定します。

ステップ④ 売上原価確定
製品の販売数量に応じて売上原価を算定します。その後、予定原価と実際原価との差額である原価差異を把握し、必要な処理を行います。

このように、数量情報が先に固まれば、各費目の締め作業と並行して仕掛品・製品・売上原価の計算を進めることができます。
月次決算を短期間で回している企業では、この「並行処理」が決算早期化に大きく寄与します。

なお、予定単価と実際単価の違いから、予定原価計算では必然的に原価差異が発生します。 比較的少額の差異は売上原価に賦課しますが、多額または異常な差異は売上原価と期末棚卸資産に配賦する必要があり、材料受入価格差異は消費分・在庫分への配賦が原則です。

【参考】 予定原価計算の作業ステップ概要図(単価:予定 × 数量:実際)


4.標準原価計算の計算手順(単価:標準×数量:標準)

(1)標準原価計算の概要

標準原価計算は、事前に設定した標準原価に基づいて原価計算を行う方法です。
製品1個あたりの標準原価をあらかじめ定め、その金額を基礎として原価計算を進める制度と考えると分かりやすいでしょう。

これにより、原価計算の効率化・早期化をさらに進めることが可能ですが、その前提として、妥当な標準原価を事前に設定しておく必要があります。
また、標準原価は単なる見積額ではなく、能率的な操業条件のもとで達成すべき目標原価という性格を持つ点に特徴があります。
標準原価計算を「単価」と「数量」に分類すると、次のように整理できます。

単価:標準
数量:標準

ここでいう「標準数量」は、製品1個あたりの標準消費量、すなわち原単位を指し、生産数量そのものは実際値を用います。 標準原価計算は、実際原価計算・予定原価計算とは異なり、差異分析による能率管理・原価管理を主目的とする独自の原価計算制度として位置づけられます。

(2)原価計算の手順

標準原価計算では、各費目の実際額が確定する前に原価計算を始められる点は予定原価計算と同じですが、さらに後工程から計算を開始できるという特徴があります。
あらかじめ製品1個あたりの標準原価が定まっているため、生産数量が確定すれば製造原価を算定でき、原価差異を除けば、販売数量が確定した段階で売上原価まで見込むことが可能です。

標準原価計算の作業ステップは、概ね次のとおりです。

ステップ① 各原価項目の残高確定
材料・労務・間接費について、製品1個あたりの標準数量(原単位)と標準単価を設定するとともに、期間中の実際発生額を集計し、標準原価との差異を算定できるように準備します。

ステップ② 仕掛品の計算
生産数量が確定した段階で、標準単価×標準数量×実際生産数量により、仕掛品の標準原価を計算します。標準原価計算には数量情報の確定すら必要ありません。生産された製品に割り当てられる単価が予め決まっているイメージです。

ステップ③ 製品・製品原価の計算
完成品に対応する標準原価を製品勘定へ振り替え、当期製品製造原価および期末製品在庫の標準原価を算定します。

ステップ④ 売上原価確定
標準原価に基づいて売上原価を算定します。そのうえで、実際原価との比較から生じる標準差異を把握し、分析につなげます。

標準原価計算でも、標準と実際の差から原価差異が発生します。
「単価」だけでなく、製品1個あたりの消費量や作業時間にも標準値を用いるため、その両面から差異が生じますが、標準原価計算制度の狙いは、まさにこの差異を体系的に分析し、原価管理・生産性向上に役立てる点にあります。

したがって、標準原価計算においては、決算早期化という側面よりも、原価管理・経営管理の高度化という目的の方が重要であるといえるでしょう。
「このくらいで製品を作る」という標準からの乖離を継続的に分析することで、原価低減や生産プロセス改善に必要な情報を得ることができます。

予定差異が主に予測のズレとして処理対象になるのに対し、標準差異は能率・原価管理のために分析する対象である点が、両者の本質的な違いです。

【参考】 標準原価計算の作業ステップ概要図(単価:標準 × 数量:標準)


5.終わりに

ここまで見ると、標準原価計算が最も優れた方法のように感じられるかもしれませんが、単純な優劣がある話ではありません。実際原価計算・予定原価計算・標準原価計算のいずれにも固有の利点と限界があり、適合する状況も異なります。

たとえば、実際原価計算は原価の実態把握を重視する場合、予定原価計算は月次決算の早期化や業務効率化を図りたい場合、標準原価計算は量産型製造業で原価管理を経営管理の中核に据えたい場合に適しています。

企業は、自社の経営戦略、業界特性、システム整備の状況を踏まえ、自社に適した原価計算方法、またはその組合せを検討することが重要です。 当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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