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2026年08月10日
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あなたの会社の経理分野で生成AI・AIエージェント導入が進まない理由は? 会計業務における4つの壁とタスク単位でのAI導入の考え方

2026年8月10日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

生成AIの発達は目覚ましく、経理・会計の分野でも「AIで業務を大幅に効率化できるはずだ」という期待の声を多く耳にするようになりました。実際、生成AIの試行利用は広がっていますが、経理の基幹プロセスに本格的に組み込む段階では、データ連携、出力の信頼性、権限・統制設計、暗黙知の明文化といった課題が残っています。

なお、本稿でいうAIとは、主として文章やデータを生成する生成AIと、複数の手順を一定程度自律的に実行するAIエージェントを指します。OCR、ルールベースの自動仕訳、RPAなどの従来型の自動化技術とは、必要に応じて区別して説明します。

AIの発展は目覚ましく今後活用範囲も変化する可能性はありますが、現時点で現実的なのは、経理プロセス全体を一度に自動化することではありません。重要性とリスクを踏まえて業務を小さなタスクに分け、AIが作成した中間成果物を適切な方法で検証しながら、段階的に適用範囲を広げることにあります。

本コラムでは、この結論に至る理由を4つの壁として整理したうえで、よくある誤解にも触れながら、現実的な導入の考え方をご紹介します。


AIを現場活用したいと思ってはいても、実際に満足のいく成果があがったというケースは私が経理や会計の現場にあたる限り非常に限定的です。

この点、生成AIやAIエージェントが経理業務で力を十分に発揮できない主な理由は、AIの性能そのものではなく、経理業務の側にAIを受け入れるための条件が揃っていないケースが多いと思います。これには、次の4つの壁が存在すると考えられます。
これらの壁(障害)は相互に関連しており、1つを解消するだけでは十分ではありません。例えば、システム連携が進むほど、権限管理や監査証跡といった統制面の検討が重要になります。

AIが業務を遂行するには、まず判断の材料となるデータ、すなわちインプットが必要です。
ところが、従来型の会計システム、給与計算システム、経費精算システムといった各システムは、それぞれの内部にデータを保有しており、そのままでは相互に連携しにくいケースが多く、扱う情報のセキュリティ面のハードルまで考えると一朝一夕に解決する課題でもありません。

また、システムによる対応方針にも違いがあります。
例えば会計システムを挙げると、主要なクラウド会計サービスではAPI(外部のソフトウェアと連携するための仕組み)の提供が進んでいる一方、従来型のシステムや一部機能では、APIが公開されていてもその範囲は限定されています。また、利用するシステムごとにAPIの対象機能、認証方式、権限、データ形式、マスタ構成が異なるため、APIが存在しても接続・変換・運用の設計,も必要となります。

システム間の連携が進みにくい背景には、情報セキュリティ、開発・保守コスト、既存システムの構造、データ項目の相違、障害時の責任分界など、複数の要因があります。そのため、APIの整備だけで直ちにすべてのシステムが円滑につながるわけではありません。

生成AI・AIエージェントも人間と同じように処理を誤ることがあります。
さらにAIは長い作業の連鎖の中で誤りが積み重なりやすいという特性があります。例えば、単純化した例として、各工程が独立し、各工程の成功率が99%で、一度でも失敗すれば全体が失敗すると仮定すると、50工程すべてが成功する確率は約60.5%となり、比較的誤りに対する許容度の低い経理業務において導入の障害になりえます。

この計算式はあくまで仮定計算であり、AIの実測精度を示すものではありません。ただ、処理工程が長くなるほど、誤りを検出・修正する仕組みが重要になることが重要であることは認識する必要があります。

その検証すらAIにやらせれば良いという意見もあると思いますが、AIによる自己検証だけでは、誤った前提や出力を十分に検出できない場合があります。また、AIの稼働にもコストが必要なため、設計次第ではあるものの反対にコストがかさむという可能性もあります。
そのため、重要な処理では、ルールベースの整合性チェック、別のモデルや仕組みとの比較、元資料との再照合、担当者による確認などを組み合わせる必要があります。

現在のAIが出来る範囲は非常に広く、広すぎるがゆえにどこまで任せるのか、権限の与えるのかを検討する必要があります。

AIに任せる業務の範囲を「資料を作る」から「システムに書き込む」「実行する」へと広げるには、AIへの権限付与が必要になります。AIにシステムへの書き込み権限を付与すること自体は、職務分掌(担当者間の相互けん制)や承認手続と直ちに矛盾するわけではありませんが、権限付与の前提となる統制の設計、すなわちAIが処理できる範囲の限定、最小限のアクセス権限、設定変更の承認、例外処理、監査証跡(処理の記録を後から検証できる状態にしておくこと)、モニタリング、責任者の明確化が、多くの会社でまだ整っておらず、導入にあたっての統制上の壁が存在しているものと思われます。

企業規模が大きくなるほど、設計がないまま権限だけを与えることは難しくなり、設計が整うまでの間、AIに任せられる範囲は従来のchat形式の質問や、データ参照や一部資料の作成までにとどまってしまいます。

この壁(障害)の構造として考えるべきは、①AI側の持つ権限と、②人間の関与、の2つの軸で捉えると分かりやすいと思います。

まず1つ目のAIに付与する権限の軸について、

  • データを参照する範囲
  • 資料・データの作成や提案を行う権限
  • システムへの記帳・書き込みを行う権限
  • 起票、送金、申告、外部送信などを実行する権限

2つ目の業務に対する人の関与方法の軸について、

  • 実行前に担当者が承認する
  • 実行後に担当者が確認する
  • 例外のみを担当者が確認する
  • 個別の確認を伴わず自動実行する

権限が強くなるほど、また人の関与が薄くなるほど、前提として求められる統制の設計は重くなります。
特に低リスクな仕訳や定型的な仕訳を、事前に検証したルールや閾値の範囲内で自動記帳し、例外のみを担当者が確認する運用は、設計が整っていれば成立します。

一方、送金、税務申告、重要な見積仕訳など、外部への影響や判断の重要性が大きい処理では、100件の処理を正しく自動化できたとしても誤った送金や誤った申告が1件生じればその損害が自動化の便益を上回りうるため、設計のハードルは一段と高くなり、厳格な事前承認を残す必要があります。

さらに機密情報の管理についても考慮が必要です。
経理データには、個人情報、給与情報、銀行口座、取引先情報、未公表の業績情報など、機密性の高い情報が含まれます。AIサービスを利用するには、入力可能な情報の範囲、入力データが学習に利用されるか、保存期間、アクセス権限、委託先や国外移転、ログの保存、削除方法、インシデント発生時の対応をあらかじめ検討しておくことが望ましく、出力の正確性を論じる以前の問題となります。
AIの導入を検討するにあたっては、情報管理とセキュリティの観点を常に持っておく必要があります。

経理業務は会計基準や税法という共通のルールに従うため、標準化された業務に見えます。
しかし実際の現場には、暗黙知と呼ばれる、明文化されていない企業独自のやり方やノウハウが積み重なっています。例えば、マニュアルに書かれていない科目の使い分けや締め処理の慣行、過去の経験の記憶に依存した例外対応、「特定部署からの申請は特に念入りに確認する」といった経験則です。

AIへの指示は明文化を前提とするため、こうした暗黙知が言語化されていない業務は、そもそもAIに任せる指示が出せません。この壁は、他の3つの壁より手前にある壁であり、システムや統制の環境が整っても、業務の中身が明文化されていなければAIは動けません。また、壁の高さが企業ごとの業務の属人化の度合いによって異なる点も特徴です。

一方、生成AIは暗黙知の明文化を支援する道具として価値を見出すことも出来ます。
担当者へのヒアリング内容から手順書のドラフトを作成する、過去の処理実績から判断基準の候補を抽出して担当者に確認するといった形で、これまで時間がなくて進まなかった文書化のコストを下げることができます。さらに、AIに任せてみて出力がずれた箇所は、明文化されていなかったルールの所在を示します。AI導入の試みは、業務の属人化を解消する機会でもあります。


先述の4つの壁を踏まえ、AI導入をめぐってよく耳にする次のような考え方には、注意が必要であることが分かります。

AIの成果物の品質は、与えられるインプットの質に大きく左右されます。
データが各システムに分散し、紙や属人的な資料のまま整理されていない状態でAIツールだけを導入しても、期待した効果は得られません。また、生成AIがすべての場面で最適とは限らず、OCR、RPA、Excel、SQL、会計システムの標準機能など、目的に応じたツールの使い分けが必要です。データの整備とツールの適材適所が、製品の選定以上に重要です。

まず、経理に関するプロセスを横断して自動化できる企業は、現時点では非常に限られています。
例えば創業間もない企業であれば、暗黙知として蓄積された業務がまだ少なく、システムや業務フローもAIの活用を前提に設計しやすいため、自動化の範囲を広げやすいと考えられます。
裏を返せば、既存の業務とシステムの上に長年のやり方が積み重なった多くの企業にとって、全面的な自動化は、前提条件の整備から始めなければならない遠い目標となりえます。

また、仮に自動化を進める場合でも、人による個別確認を省略するには、対象業務のリスクに応じて、事前に定めたルール、処理の閾値、例外検出、アクセス管理、監査ログ、継続的なモニタリングなど、別の統制を設計する必要があります。目指すべきは単純に自動化率を高めることではなく、業務の重要性に応じて、人による確認と自動化された統制を適切に配置することです。

AI導入の効果は、直ちに人員削減として現れるとは限りません。
その効果自体は定型作業の削減、繁忙期負担の平準化、採用や外注の抑制、決算の早期化、例外対応や分析業務への役割移行など、複数の形で期待できますが、確認・検証や設計を適切に担える人材の育成等、むしろAI導入後の課題も生じ得ます。

筆者の所感を含みますが、現時点、経理分野における生成AIやAIエージェントの性能はどちらかといえば各人のキャパシティや能力を拡張する機能の方が強いものと考えられます。


ここまで導入を阻む壁について述べてきましたが、これは生成AI・AIエージェントの活用に否定的だからではありません。むしろ筆者は、その活用に大きな価値があると考えています。壁を正しく理解することは、導入を諦めるためではなく、確実に効果の出る形で導入を進めるために必要な作業です。それでは、経理におけるAI活用はどのように進めるべきでしょうか。ポイントは、AIを活用する「粒度」の設定にあります。

先に述べた4つの壁は、いずれも複数のシステムをまたぐ長い業務プロセスをまるごとAIに任せようとした場合に顕著に現れるものです。逆にいえば、一人の担当者の個別の作業単位まで対象を絞れば、接続する範囲も処理の工程も限定されるため、障害は小さくなり効果を発揮できる分野は広がります。

手元にあるデータで完結するため接続の壁は生じにくく、工程が短いため誤りが積み重なりにくく、成果物を担当者が確認してから使うため既存の手続の中に収まります。タスク単位という粒度は、現在のAIの特性と業務側の制約の双方に、無理なく収まる大きさと言えます。

では、どのようなタスクが向いているのでしょうか。生成AIが力を発揮しやすいのは、次のように、決まった正解を機械的に導くのではなく、文脈を読んで整理・生成する作業です。

  • システム取込用のデータやドラフトの下書きを作成する
  • データ間照合を行い、不一致の検証、原因を分類・要約を行う
  • 会計処理に必要な情報収集(例えば時価評価に必要な情報の収集など)
  • 会計情報に繋がるスプレッドシートの更新・ドラフト作成を行う
  • 月次報告レポートの下書きを行う

反対に、数値の完全一致の確認や定型的な照合も実行は可能ですが、判定基準が明確な作業は、Excel、SQL、RPA、ルールベースの処理に任せる方が確実な場合もあります。

こうして切り出したタスクをシステムにつなぐ際に有効なのが、AIに取込用のファイルなどの中間成果物を作成させ、担当者が内容を確認したうえでシステムに取り込むという流れです。多くの会計・ERPシステムにはCSVなどの取込機能が備わっており、システム間を直接つなぐ仕組みがなくても、ファイルを介したデータの受け渡しはほとんどの環境で成立します。

その意味で、CSVなどの取込用ファイルは、事実上の共通の受け渡し口として機能しているといえるでしょう。
APIの整備を待たずに接続の壁を迂回できることが、この方法の強みです。もっとも、利用できるファイル形式、必須項目、マスタとの対応、文字コード、件数制限などはシステムごとに異なるため、事前の確認は欠かせません。あわせて、成果物を担当者が確認してから利用する運用とすることで、既存の承認手続にも組み込みやすくなります。

なお、タスクを切り出す過程で、その作業のインプット、手順、判断基準を言語化する作業が自然に伴います。これは暗黙を明文化する機会であると捉えることも出来ます。
ここで大切なのは、AIに一回でタスクが出来るようになると思わないことです。人間に教えるのと同じように自社内のノウハウやルールをスキル等として蓄積していくことが重要です。

導入効果は、作業時間だけでなく、AI出力の修正率や再作業率、例外発生率、検証対象のカバー率、月次決算の所要日数、担当者のレビュー工数などを組み合わせて評価することが重要です。

時間が短縮されなくても、従来は工数の制約で実施できなかった全件検証が可能になったり、誤りの検出力が向上したりしている場合には、導入効果があると評価できます。要するに、人間の目では実行困難であった件数の検証が可能等、一つの作業を生成AI等の方が効果的に実行可能な分野があるということです。

作業時間だけを効果の物差しにすると、こうした品質面の効果が評価されず、「AIを入れたのに時間が減らない」という誤った総括につながりかねません。

タスク単位の活用が進むと、経理担当者の役割は、自ら手を動かす定型作業から、次のような設計・判断・検証の業務へと徐々に移っていくものと思われます。

  • AIに任せる業務範囲の設計と、データ・マスタの整備
  • 例外ルールや閾値の設定と、AI出力の妥当性判断
  • 会計・税務上の専門的判断と、経営者や監査人への説明
  • AI利用状況のモニタリングと、AIやシステムの変更管理

AIの成果物に対する確認を内部統制上のチェックポイントとして機能させるには、確認が形だけのものにならないよう、確認・検証を実質的に行う体制づくりが重要です。

確認の方法は一律ではなく、導入初期や重要な処理ではなるべく幅広く確認を行い、低リスクの定型処理や誤りのない作業については、サンプリング確認や例外確認へ段階的に移行するいったことが考えられます。

また、生成AIやAIエージェント側にフィードバックを行うことで作業制度を上げることも可能です。


本コラムでは、経理・会計分野で生成AI・AIエージェントの本格導入が進みにくい理由を、接続・信頼性・統制及び情報管理・暗黙知の4つの壁として整理し、よくある誤解に触れたうえで、タスク単位の活用を積み重ねるという現実的な導入の考え方をご紹介しました。

大切なのは、現在の制約を正しく理解したうえで、業務の重要性とリスクに応じた形で、いま確実に効果の出る範囲から着実に導入を進めることです。AIの技術やシステム間の連携環境は急速に発展しており、今後これらの障害が解消され、任せられる範囲が段階的に広がっていくことも十分に考えられます。

なお、AIサービスや会計システムの機能・仕様は随時変更されるため、実際の導入に当たっては、各サービスの最新情報及び自社の業務・内部統制の状況をご確認ください。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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