「決算書」正しくはなんという? 計算書類・財務諸表・決算報告書の違いをやさしく解説
2026年8月12日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに
貸借対照表や損益計算書など会社の決算に関する資料は場面によって「決算報告書」「計算書類」「財務諸表」といった呼ばれ方をすることがあります。
いずれも会社の財政状態及び経営成績を示す資料を指して使われることに相違はありませんが、厳密には使われる場面や制度上の意味が異なります。例えば、株主総会、金融機関への提出、税務申告、有価証券報告書など、同じような資料であっても呼び方が変わることがあります。
本コラムでは、決算書、決算報告書、計算書類、財務諸表という言葉について、それぞれの意味と実務上の使い分けを整理します。
2.決算書という呼び方は正式名称なのか
(1)決算書は実務上よく使われる一般的な呼び方
① 厳密な法令用語ではない点
「決算書」という言葉は、貸借対照表や損益計算書などを表現する実務上非常によく聞く言葉だと思います。特に中小企業の経理、税務申告、金融機関対応、社内報告などでよく用いられます。
ただし、「決算書」は、会社法や金融商品取引法において、特定の書類一式を厳密に定義する正式名称として使われている言葉ではありません。法律上の手続を説明する場合には、会社法上は「計算書類」、金融商品取引法上の開示では「財務諸表」といった用語を使う方が正確です。
したがって、「決算書」は正式な制度用語というより、会社の決算内容を示す書類をまとめて表す実務上の一般的な呼び方と考えると分かりやすいです。
② 利用される場面
「決算書」という呼び方は、主に以下のような場面で使われます。
- 金融機関に融資審査資料として提出する書類
- 取引先から業績確認のために提出する書類
- 経営者が会社の業績を確認する書類
- 顧問税理士や会計事務所とのやり取りで使う書類
- 税務申告書に添付する決算関係書類
特に中小企業では、貸借対照表や損益計算書などをまとめて「決算書」と呼ぶことが多く、実務上はこの言い方で十分に意味が通じます。
ただし、議事録の作成、株主総会資料など、正確に書類の範囲を明確にすべき場面では、「決算書」とだけ記載すると、どの書類を指しているのか不明確になる可能性があります。そのため、必要に応じて「貸借対照表及び損益計算書」や「計算書類」など、具体的な書類名を示す方が良いでしょう。
(2)決算書に含まれる主な書類
前述の通り、「決算書」という名前に法律上の定義が無いため、その範囲は企業によって変化しますが、代表的なものとして以下の書類が含まれます。
① 貸借対照表
貸借対照表は、会社の一定時点における財政状態を示す書類であり、この書類が外れることはまずありません。資産、負債、純資産が表示され、会社がどのような財産を持ち、どのような債務を負い、最終的にどれだけの自己資本があるのかを確認できます。
② 損益計算書
損益計算書は、一定期間における経営成績を示す書類です。売上高、売上原価、販売費及び一般管理費、営業利益、経常利益、当期純利益などが表示されます。これも通常、「決算書」と言われれば外れることの無い書類です。
③ その他の計算書類(株主資本等変動計算書・個別注記表)
株主資本等変動計算書は、純資産のうち株主資本などがどのように増減したかを示す書類です。配当、当期純利益、資本金、利益剰余金の変動などを確認できます。
個別注記表は、貸借対照表や損益計算書などを理解するために必要な補足情報を記載する書類です。会計方針、重要な取引、表示に関する補足などが記載されます。他にもキャッシュ・フロー計算書や包括利益計算書、各種連結書類等を含むこともあります。
会社法上の計算書類は、一般的に貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表を指します。前述の通り、「決算書」という言葉に法律上の定義はないため、会社法上の「計算書類」の範囲が一致するとは限りません。
3.計算書類とは何を指すのか
(1)会社法における正式な呼び方
「計算書類」は、会社法において使われる正式な用語です。株式会社は、各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成する必要があります。
会社法上の計算書類は、一般的に貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書及び個別注記表を指します。これにさらに附属明細書が加わると、「計算書類等」となります。
会社法に基づく正式な書類を作成する場合には、「決算書」ではなく「計算書類」や「計算書類等」と表現する方が適当です。
例えば、定時株主総会で承認又は報告の対象となる書類、取締役が作成する決算関係書類、監査役や会計監査人の監査対象となる書類を説明する場合には、「計算書類等」という用語が使われます。なお、会計監査人による監査は、主に大会社などの会計監査人設置会社で求められます。
(2)利用される場面(招集通知への添付等)
計算書類は、主に会社法上の手続で利用されます。
代表的な場面として、株主総会における決算承認があります。
定時株主総会では、株主に対して会社の決算内容を説明し、必要に応じて承認を受けることになります。その際、計算書類や事業報告は株主に提供される重要な資料となります。一定の会社では、株主総会の招集通知に計算書類や事業報告などを添付又は提供する必要があります。
また、決算公告との関係でも計算書類は利用されます。
株式会社は、原則として定時株主総会後に、大会社は貸借対照表及び損益計算書を、それ以外の会社は貸借対照表又はその要旨を公告する必要があります。中小企業では実務上十分に意識されていないこともありますが、会社法上の決算手続を考えるうえでは、「計算書類」という用語を押さえておくことが重要です。
なお、連結情報を載せる連結計算書類も存在しますが、ここでの説明は割愛します。
4.財務諸表とは何を指すのか
(1)金融商品取引法や会計基準で使われる呼び方
① 主に上場会社における有価証券報告書での使用
「財務諸表」は、主に金融商品取引法や会計基準、上場会社の開示実務で使われる呼び方です。
特に、有価証券報告書、半期報告書などで、「財務諸表」又は「連結財務諸表」という言葉が使われます。なお、よく似た書類に決算短信がありますが、取引所規則に基づく適時開示であり、金融商品取引法上の法定開示とは制度上の位置づけが異なる点は補足します。
財務諸表等規則上の財務諸表は貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュ・フロー計算、附属明細表を指します。さらにこれらに、注記などを含めたものを「財務諸表等」と言います。
上場会社の場合、投資家、株主、債権者など、多数の外部利害関係者が会社の情報を利用します。そのため、一定のルールに基づいて財務情報を作成し、開示することが求められます。
なお、連結情報を載せる連結財務諸表も存在しますが、ここでの説明は割愛します。
② 投資家向け開示との関係
財務諸表は、投資家が企業価値や投資判断を行うための重要な情報です。会社の売上、利益、資産、負債、キャッシュ・フローなどを通じて、収益性、安全性、成長性を判断する材料となります。この点で、財務諸表は単に税務申告や社内管理のための資料ではなく、外部の投資家に向けた開示資料としての意味合いが強いといえます。
(2)財務諸表と計算書類の違い
① 作成目的の違い
計算書類と財務諸表は、どちらも会社の財政状態及び経営成績を示す書類ですが、作成目的が異なります。計算書類は、主に会社法に基づき、株主に対する報告や会社の決算手続のために作成されます。一方、財務諸表は、主に上場企業が金融商品取引法に基づき作成します。
つまり、計算書類は会社法上の株主総会や決算手続を意識した書類であり、財務諸表は資本市場における情報開示を意識した書類であるといえます。
② 提出先・利用者の違い
計算書類の主な利用者は、株主、会社役員、監査役、会計監査人などです。非上場会社であっても、株式会社であれば会社法上計算書類が必要となります。
一方、財務諸表の主な利用者は、投資家、証券アナリスト、金融機関、取引所、規制当局などです。特に上場会社では、有価証券報告書などを通じて広く外部に開示されます。
したがって、同じ貸借対照表や損益計算書であっても、会社法の文脈では「計算書類」、金融商品取引法や投資家向け開示の文脈では「財務諸表」と呼ぶのが基本です。
法律上の定義のある「財務諸表(等)」や、「計算書類(等)」の対象書類をまとめると以下のようになります。
」と金融商品取引法上の「財務諸表(等)」の範囲の整理-1024x565.png)
5.決算報告書という呼び方は正しいのか
(1)実務上使われるが意味が広い言葉
「決算報告書」という言葉も、実務上よく使われます。ただし、「決算報告書」も前述の「決算書」同様、法律上の定義がある言葉ではなく、使う人や場面によって指している範囲が異なることがあります。
例えば、社内で経営会議に提出する決算説明資料を「決算報告書」と呼ぶことがあります。
また、会計事務所が顧問先に対して、決算数値、税額、前期比較、経営分析などをまとめた資料を「決算報告書」として作成することもあります。このように、「決算報告書」は、法律上の特定の書類というより、決算内容を分かりやすく報告するための実務上の総称であると言えます。
(2)税務申告書一式を含めて使われるケース
特に中小企業実務では、「決算報告書」という言葉が、税務申告書一式を含む意味で使われることもあります。例えば、法人税申告書、勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書、貸借対照表、損益計算書など、申告書に添付される書類のことを決算報告書と呼ぶケースです。
ただし、税務申告書と決算書類は本来同じものではありません。税務申告書は、法人税などの申告及び納税のために作成する書類である一方、貸借対照表や損益計算書などは、会社の財政状態及び経営成績を示す会計書類であくまで申告の際に添付が求められているに過ぎません。 実務上はまとめて扱われることがありますが、内容や目的は異なるため、金融機関や取引先に提出する際には、相手が何を求めているのかを把握することが必要です。
(3)厳密な法令用語ではない点
「決算報告書」は幅の広い言葉ですが、厳密な法令用語として、常に特定の書類を意味するものではありません。
そのため、契約書、株主総会資料、取締役会議事録、金融機関への提出書類一覧などで使う場合には注意が必要です。単に「決算報告書」と記載するだけでは、貸借対照表や損益計算書を指すのか、税務申告書を含むのか、社内説明資料を指すのかが不明確になる可能性があります。
実務上は、必要に応じて次のように具体的に記載すると誤解を避けやすくなります。
- 貸借対照表及び損益計算書
- 会社法上の計算書類一式
- 法人税申告書及び添付書類一式
「決算報告書」という言葉自体が誤りというわけではありませんが、正式な手続や提出書類を明確にする場面では、より具体的な名称を使うこと、その範囲を明確にしておくことも大切です。
6.終わりに
決算書、決算報告書、計算書類、財務諸表はいずれも会社の決算に関係する言葉ですが、使われる場面や制度上の意味は異なります。日常的な実務では「決算書」で通じる場面が多い一方、会社法上は「計算書類」、金融商品取引法や上場会社の開示では「財務諸表」と呼ぶのが基本です。
また、「決算報告書」は実務上広く使われますが、指す範囲があいまいになりやすいため、提出先や目的に応じて具体的な書類名を確認することが重要です。本コラムが、決算書類の呼び方を整理する際の参考になれば幸いです。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
弊事務所では、企業会計(財務会計)に関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。
