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2025年12月09日
企業会計-COLUMN-

借入金の借換はCF上どのように表示する? 財務活動によるキャッシュ・フローの純額表示の実務

2025年12月9日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

企業の財務活動において、借入金の借換(リファイナンス)は、資金繰りの安定や金利条件の見直しを図る上で重要な手段の一つです。とりわけ、企業の資金繰り状況、金利環境の変化や金融機関との取引関係の再構築等を背景として、借換は幅広く利用されています。

会計上、借換は、貸借対照表上では既存の借入金の返済と新たな借入金の計上という形で表され、額面に変化の無い限り貸借対照表上は変化が無いように見えます。しかし、キャッシュ・フロー計算書上は財務活動によるキャッシュ・フローは原則、総額表示とされています。

本稿では、こうした借換取引がキャッシュ・フロー計算書においてどのように取り扱われるかについて、原則的な表示方法と例外的な取扱いの考え方を整理し、特に短期借入金における純額表示の適用可能性について解説します。


2.借入金の借換の意味

借入金の借換とは、既存の借入金を返済すると同時に、新たな借入を実行する取引をいいます。
借換を行う理由はいくつかありますが、代表的なものは以下の通りです。

・金利条件や返済条件の見直し
・資金繰りの安定化

このような取引は、財務的には借入がそのまま継続しているにすぎないにもかかわらず、形式上は現金等の流出入を伴うことがあるため、キャッシュ・フロー計算書上の表示において適切な判断が必要となります。
なお、本稿においては、借換によって額面や利率を始め期間以外の諸条件に変化は無いものとして解説を行います。


3.借換のキャッシュ・フロー上の取扱い

(1)原則的な取扱い

キャッシュ・フロー計算書においては、財務活動によるキャッシュ・フローは原則総額表示するものとされています。
そのため、特に実際のキャッシュ・フローを伴う場合、貸借対照表上変化が無いような場合であっても借入金の返済はキャッシュ・アウト、新規借入はキャッシュ・インとして、それぞれ「財務活動によるキャッシュ・フロー」に表示されます。

<表示例>
・借入金の返済による支出    : △ 10億円
・借入れによる収入              : + 10億円

もっとも、借換には企業口座に入出金が伴わず、実質的に借入期間の延長のみを行っているような場合もあります。このような場合、キャッシュ・アウト(返済)もキャッシュ・イン(借入)も無いと判断し、キャッシュ・フロー計算書に表示しないという方法も考えられます。
ただし、最終的な表示方法については、取引の実態を正確に把握したうえ、会計監査人を設置している場合には会計監査人と協議することをお勧めします。

(2)例外的な取扱い

キャッシュ・フロー計算書の財務活動においては、一定の条件を満たす場合に限り、返済と借入を相殺した純額での表示が認められています。
その条件は、「期間が短く、かつ、回転が速い項目に係るキャッシュ・フロー」とされており、短期借入金はその代表例とされています。

対象となる借入金がこの条件を満たす場合、純額表示が認められますが、借換という行為の全てこの条件に該当するわけではありません。
この例外処理の条件は借換を想定したものではなく、条件を満たすかどうかは行為ではなく、元となる借入金の条件やその実行頻度によって判定を行う必要があります。

なお、この短期がどの程度の期間なのかという点について、明記はされていないものの現金同等物に準じれば「3ヶ月以内」という期間を一定の目安とすることが出来ます。

(3)長期借入金と短期借入金

前述の通り、財務活動によるキャッシュ・フローであったとしても、例外的に純額表示することが可能な場合がありますが、この純額表示の要件を満たすのは通常、短期借入金のみであると思われます。

長期借入金はその科目の性質からそもそも短期間という条件を満たし辛く、例外処理を行うことが出来る場合は限定的でしょう。長期借入金の借換で実際に入出金を伴う場合、通常純額表示は出来ないと考えておいた方が良いと思います。
反対に、短期借入金であったとしても、短期且つ回転率が高いという条件を満たさない場合には例外処理を用いることが出来ません。例外の条件は借換のみを想定している条件ではありませんので、条件を満たしているか注意する必要があります。


4.終わりに

借入金の借換は、企業の財務管理において広く用いられる手段であり、財務活動において総額表示を求めるキャッシュ・フロー計算書上どのように表示すべきか判断に迷うかもしれません。

そのような場合、自社の口座に実際に入金があるか否か、及び、短期かつ回転の速い取引に該当するか否かについて実態を把握し、純額表示が可能かどうかを判断する必要があります。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


弊事務所では、企業会計(財務会計)に関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。

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