実際原価計算と標準原価計算の計算手順の違い 原価計算早期化、効率化、原価計算のステップ
2024年5月13日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
在庫金額の計算や、経営分析、コスト管理において重要な役割を担う原価計算には、実際原価計算や、予定原価計算、標準原価計算といった方法があります。
原価計算に携わる方であれば、これらの言葉を一度は耳にしたことがあるのではないかと思いますが、それぞれの原価計算方法によって計算手順やその作業効率が変わることをご存知でしょうか。
本稿では、それぞれの計算手順の違いと効率について解説します。
2.実際原価計算の計算手順(単価:実際 × 数量:実際)
(1)実際原価計算の概要
実際原価計算は、実際に発生したコストを製品に割り当てる方法です。これにより、製品の製造コストの実態を明確にすることが出来ます。
それぞれの原価計算方法の比較をするために、その原価の計算構造に着目し、材料費や労務費といった原価を「単価」と「数量」に分解して説明を行います。なお、経費を中心とした固定費、製造間接費については、単純に二つの要素に区分することはできませんが、混乱を避けるためここでの解説は割愛します。
実際原価計算は、原価を「単価」と「数量」に分類すると、単価:実際 × 数量:実際となります。
実際原価計算には、予定単価を用いる予定原価計算が存在しますが、本稿では、「単価」、「数量」のいずれも実績値を用いる方法を「実際原価計算」と呼称します。
(2)原価計算の手順
実際原価計算では、後追いでコストの計算が必要なため、時間がかかります。
すなわち、各費目の実際発生額が確定しなければ原価計算を行うことができないため、原価計算の手続に入るまでに期間を要するのです。
実際原価計算の作業ステップをまとめましたので、下図を見てみましょう。
【参考】 実際原価計算の作業ステップ概要図(単価:実際 × 数量:実際)
各費目の伝票が全て入力された状態から原価計算が始まり、順番に仕掛品、製品の計算を行います。実際には、製造間接費の計算ステップ等があるため、通常はさらに複雑化されているでしょう。
また、伝票が一本でも漏れていれば、原価計算へ影響が出るため、最初からやり直しといったこともありえます。
3.実際原価計算の計算手順(単価:実際 × 数量:実際)
(1)予定原価計算の概要
予定原価計算は、実際に発生したコストを製品に割り当てる方法には変わりありませんが、一部に予定単価を用います。これにより、原価計算の効率化、早期化が可能となります。
予定原価計算は、原価を「単価」と「数量」に分類すると、単価:予定 × 数量:実際となります。
予定原価計算は、実質的には実際原価計算の一形態なのですが、本稿では、「単価」に予定値を用いる方法を「予定原価計算」と呼称します。
(2)原価計算の手順
予定原価計算では、各費目の確定前に原価計算を始めることができます。
原価に予定単価を用いるため、材料消費量などの数量情報が確定すれば、原価計算に着手することが可能なためです。
予定原価計算の作業ステップをまとめましたので、下図を見てみましょう。
【参考】 予定原価計算の作業ステップ概要図(単価:予定 × 数量:実際)
数量情報確定後に原価計算を始め、各費目の締め作業は並行して行うことが出来ます。
その程度かと思われるかもしれませんが、これは月次で実行されることが多く、報告までの期間限られている企業では非常に大きな効率化といえます。
予定原価計算では原価差異が発生します。
実績値以外を用いる方法では必ず原価差異が発生しますが、予定原価計算も例外ではありません。
ただし、原価差異は売上原価に配賦されるものが大半であり、これも早期化に寄与しています。
4.標準原価計算の計算手順(単価:予定(標準) × 数量:予定(標準))
(1)標準原価計算の概要
標準原価計算は、予め設定しておいた標準原価により原価計算を行います。
製品一個あたりの原価が予め決まっていると思うと良いかもしれません。
これにより、さらに原価計算の効率化、早期化が可能となりますが、事前に標準原価を設定する必要がある点には注意が必要です。
標準原価は予定原価と実績値ではないという点では共通しますが、同じではありません。
標準原価には目標としての性格があり、「このくらいで製品を作るぞ」という努力目標も含まれています。
標準原価計算は、原価を「単価」と「数量」に分類すると、単価:予定(標準) × 数量:予定(標準)となります。
標準原価計算は、これまでの実際原価計算、予定原価計算と異なり、全く別の原価計算方法になります。
(2)原価計算の手順
標準原価計算では、各費目の確定前に原価計算を始めることができるのは予定原価計算と同じですが、さらに後工程から開始できます。
予め、製品あたりの原価が決まっているため、生産数量が確定すれば製造原価を確定することが出来ます。原価差異を除けば、販売数量が確定すれば、売上原価を確定させることも出来ます。
標準原価計算の作業ステップをまとめましたので、下図を見てみましょう。
【参考】 標準原価計算の作業ステップ概要図(単価:予定(標準) × 数量:予定(標準))
標準原価計算でも原価差異が発生します。
「単価」だけでなく、「数量」にも実績値以外を使用しているわけですから、その両方から差異が発生ます。ただし、標準原価計算はこの差異を分析することで原価管理に役立てるという制度でもあります。
標準原価計算においては、決算の早期化よりもこの原価管理の目的の方が重要といえるでしょう。
「このくらいで製品を作るぞ」と決めた額からの誤差を分析することで、以降の原価低減に必要な情報を得ることが可能となるのです。
5.まとめ
如何だったでしょうか。
上記の解説を一通り読むと、標準原価計算が最も優れた方法のように感じるかもしれませんが、いずれの方法も優劣のあるものではありません。実際原価計算、予定原価計算、標準原価計算いずれも、それぞれに利点と適当な状況が異なります。
企業は自社の経営戦略や業界の特性に応じて、最適な原価計算方法を選択し、コスト管理と業務効率の向上を図るのが良いでしょう。どちらの方法も、正確なコストデータと経営分析の基盤を提供し、経営の質を高めることに貢献してくれます。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。