株式会社以外も連結対象となる? 連結範囲の判断基準と会社に準ずる事業体を解説
2025年12月16日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに
有価証券報告書には多くの会計情報が含まれますが、その情報の中でも連結財務諸表の重要性は非常に高いと言えます。
連結財務諸表は、親会社および子会社の経済的実態を一体として表示するものであり、その「連結範囲」は適切に検証しなければ会計数値を歪めてしまうことになってしまいます。
この連結対象となるのは株式会社だけではありません。
「会社に準ずる事業体」も連結の対象に含まれる可能性があり、組織の形態が株式会社以外であっても、実質的な支配関係の有無に基づいた判断が必要とされます。本稿では、連結範囲の基本的な考え方から、株式会社以外の法人や組織体を連結対象とする際の具体的な判断基準について解説します。
2.連結範囲の基本的な考え方
(1)親会社の定義
他の会社または会社に準ずる事業体を支配している会社を「親会社」と定義しています。ここでいう「支配」とは、単に議決権の過半数を保有しているだけでなく、取締役の就任などを含む実質的な意思決定権限を有している状態を指します。
この支配の基準は以下の記事でも解説を行っていますので、本稿での詳細な解説は省略します。
(参考)子会社(支配をしているか)の判定フローチャート
の判定フローチャート-300x218.png)
(2)株式会社以外の組織が連結範囲に含まれるか
会計基準において、連結の対象は「株式会社」に限定されず、「会社に準ずる事業体」も含まれます。
これは、実質的に営利活動を行い、親会社による支配が及ぶ組織であれば、組織の形態にかかわらず連結の必要があるという考え方に基づいています。
したがって、合名会社や合同会社、さらには事業協同組合、特別目的会社(SPC)なども連結対象となる可能性があります。
3.会社に準ずる事業体の具体例と判断基準
そもそも会計基準上、連結範囲は広めに設定されています。
その背景には、連結外し等の手口を始めとした不正防止の観点もあるものと思われます。
例えば、連結範囲へ含むか否かを自由に選択できる場合、都合の悪い不良資産などを連結対象外の企業に押し付けることで、財政状態、経営成績の不正な操作が可能となってしまうのです。
そのため、可能な限り広く連結範囲を捉え、会計監査人の検証のもと判断を行う仕組みとなっていると思うのが良いでしょう。以上を前提として、組織形態ごとの取扱いを以下の通りまとめます。なお、今回、連結範囲検討にあたっての金額的重要性は考慮せず解説を行っています。
(1)合名会社・合資会社・合同会社
これらは会社法に基づく法人格を有する会社形態であり、原則として株式会社と同様に連結範囲に含まれます。
対象会社に支配力を有するとされる場合、当然、連結対象となります。特に合同会社(LLC)は、近年、機動性の高い会社形態として利用が拡大しており、実質的に完全子会社として設立される例もあるため、連結判断の対象として注意が必要です。
(2)組合(事業協同組合、有限責任組合、投資事業組合 等)
組合には、民法に基づく任意組合と、投資事業有限責任組合法などの特別法に基づく組合があります。
いずれにしても、企業会計基準上は「会社に準ずる事業体」として、連結検討対象に含まれ、実質的な支配関係が認められれば連結範囲に含まれます。
(3)海外現地法人
対象法人(組織)の所在地が日本であるかどうかは関係なく、海外における現地法人も連結検討対象範囲に含まれます。
支配力基準によって連結子会社となるか判定を行う点も、日本法人の場合と変わるところはありません。
(4)SPC(特別目的会社)
証券化やプロジェクトファイナンスのために設立されるSPC(特別目的会社)についても、連結範囲に含まれますが、支配力の判定については注意すべき点があります。
SPCはその性質上、多額のファイナンスを行うことが一般的ですが、仮に大半の融資を特定の金融機関に依存していたとしても、それだけをもって当該金融機関の連結対象とはなりません。
例えば、MBO実行のために設立したSPCが、特定の金融機関のみから融資を受けた場合、それだけをもって金融機関の連結子会社とはなりません。
(5)社団法人、財団法人
会計基準上は「会社に準ずる事業体」は営利を目的とするものに限られると解されており、公益社団法人や一般財団法人など、非営利法人は原則連結対象外となります。但し、基準上も一般的にには連結範囲対象外とする程度の表現に留められており、場合によっては連結対象となる可能性もあります。
(6)JVジョイントベンチャー
ジョイントベンチャー(JV)は、複数の企業が出資して共同で設立・運営する事業体であり、上述にもある組合の内、民法上の組合に該当すると考えられています。
しかし、JVでは通常、一定の会計期間で決算を行っておらず、JVが行った取引は構成員がその出資比率に応じて取り込む(既に会計情報は取り込まれている)ことから、連結は行わないのが一般的です。
4.連結範囲に含めない場合
子会社と判定された企業や組織体であっても、連結範囲に含めることが出来ない場合と、連結範囲に含めないことが出来る場合があります。
(1)連結範囲に含めることが出来ない会社
親会社が実質的に支配力を有している場合であっても、連結財務諸表利用者(投資家や金融機関など)にとって混乱を招くような場合は連結対象外となります。
① 親会社による支配が一時的であり、今後も継続的な支配が見込まれない会社
② 連結すること自体が、投資家や債権者など利害関係者の意思決定を著しく誤らせるリスクがある会社
(2)連結範囲に含めないことが出来る会社
資産や売上高などの規模が極めて小さく、連結範囲から除外しても企業集団の財政状態や経営成績、キャッシュ・フローの状況に関する合理的判断を妨げない程度に重要性が乏しい場合は、連結範囲に含めなくてもよいとされています。
5.終わりに
多くの子会社は株式会社であることから、それ以外の組織体は連結の範囲に含まれないかというとそうではありません。合同会社や、組合、SPC、JVなど多種多様な事業体が存在しており、そのいずれにおいても、「この組織体は必ず連結から除外される」という基準にはなっていません。
連結会計を行うことで、連結外しによる利益操作などを防止するような仕組みになっていますので、それぞれの組織体がどのように運営され、支配されているのかを判断する必要があります。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
弊事務所では、企業会計(財務会計)に関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。
