第三回 キャッシュ・フロー計算書計算構造から作成方法を解説 代表的な貸借対照表項目の具体的な増減分析の方法(資産の部編)
2026年1月12日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
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1.はじめに
これまでの第一回では貸借対照表の増減がキャッシュ・フロー計算書作成の基本構造にあること、第二回では、貸借対照表増減の調整の方向性を3つの分類に区分し解説してきました。
本稿では、代表的な貸借対照表勘定科目ごとにどのようにキャッシュ・フロー上調整が必要なのかを解説します。
代表的な科目に限定しているとはいえ、情報量も多いことから今回は「資産の部」に焦点をあてて解説を行います。「負債の部」、「純資産の部」については次回のコラムを参照ください。
なお、キャッシュ・フロー計算書の計算構造を前提とした各種調整項目と貸借対照表科目の増減との関係を解説する都合上、本解説においては、会計基準上の厳密な表現や分類を行っていない箇所があります。たとえば、キャッシュ・フロー計算書における「現金及び現金同等物」を、説明の便宜上「現金等」や「キャッシュ」と表現している点、ご容赦下さい。
2.流動資産の増減
流動資産の増加または減少は、キャッシュ・フロー上以下のように取り扱われます。
• 流動資産の増加:キャッシュ・アウト
• 流動資産の減少:キャッシュ・イン

以下に、代表的な勘定科目について個別に解説します。
(1)売掛金・受取手形及び電子記録債権
売掛金や受取手形をはじめとする売上債権の増減は、キャッシュ・フロー計算書上、営業活動内で完結することが多く、その増減額の純額を「売上債権の増減額」といった勘定科目で表示するのが一般的です。ただし、たとえば破産更生債権への振替が行われるなど、勘定科目の変更や修正が行われた場合には注意が必要です。そのような場合、双方の勘定科目の増加と減少を相殺し、キャッシュ・フロー上は影響のないように調整を行います(当期においてキャッシュ・フローが実際には発生していないという前提によります)。
企業ごとに会計処理はかなり幅があるので絶対ではありませんが、特殊なイベントが無い限りは増減額の純額を営業活動によるキャッシュ・フローに表示することの多い科目です。
(2)棚卸資産(商品、材料、製品、仕掛品等)
棚卸資産の増減は、主に営業活動によるキャッシュ・フローの調整項目として扱われます。棚卸資産の増加は「仕入のために現金等を支出したが販売されていない」状態と考え、キャッシュの流出としてマイナス調整を行います。
反対に棚卸資産の減少は「販売により在庫が減少した」ことを意味し、キャッシュの流入としてプラス調整されます。
キャッシュ・フロー計算書上、棚卸資産の増減も営業活動内で完結することが多く、その増減額の純額を「棚卸資産の増減額」といった勘定科目で表示するのが一般的です。ただし、評価損等が発生している場合は、PL上で費用化されても実際のキャッシュの支出を伴わないため、非資金取引として別途調整の対象になります。
棚卸資産についても特殊なイベントが無い限り、増減額の純額を営業活動によるキャッシュ・フローに表示することの多い科目であるといえます。
(3)短期貸付金
短期貸付金は、企業が短期間で回収を予定している資金の貸付であり、通常はキャッシュ・フロー計算書上、投資活動に分類されます。
短期貸付金の基本的な動きは、新規の貸付により増加(現金等は減少するためキャッシュ・アウト)し「短期貸付けによる支出」などのキャッシュ・フロー計算書上の科目で表示します。反対に回収により減少(現金等は増加するためキャッシュ・イン)することから、「短期貸付金の回収による収入」といった科目で表示します。
投資活動によるキャッシュ・フロー計算書は、原則として総額表示によりますが、例えばグループ内でCMS(キャッシュ・マネジメント・サービス)を利用している場合等、その貸付と回収が短期かつ回転が速い場合には純額で表示するケースもあります。
(4)貸倒引当金
貸倒引当金は、将来の貸倒に対する見積の利用であり、計上時点でキャッシュの支出を伴いません。したがって、当期に引当金を繰り入れた場合には、非資金取引として営業活動によるキャッシュ・フローの中で調整されることになります。
貸倒引当金の増加、減少いずれも通常はキャッシュ・アウト、キャッシュ・インを伴わず、非資金取引に該当します。そのため、貸倒引当金の増減は純額で「貸倒引当金の増減額」といった科目で表示することが一般的です。
貸倒引当金も特殊な処理が無い限り、増減額の純額を営業活動によるキャッシュ・フローに表示することの多い科目です。
3.有形無形固定資産の増減
有形無形固定資産の取得や売却に関する増減は、キャッシュ・フロー計算書において主に「投資活動によるキャッシュ・フロー」として取り扱われます。
• 有形無形固定資産の増加:キャッシュ・アウト
• 有形無形固定資産の減少:キャッシュ・イン

また、間接法の考え方は営業活動によるキャッシュ・フローにのみ適用されるものであり、投資活動や財務活動においては収入・支出を原則そのまま総額で表示する必要があります。
本項では、固定資産のうち代表的な勘定科目について、個別にそのキャッシュ・フロー上の扱いや増減の背景となる取引を解説します。なお、減価償却資産は建物や機械装置など複数種類存在しますが、キャッシュ・フロー上の取扱いにおいては大きな差異がないため、まとめて説明します。
(1)土地
まずは理解がしやすい非償却資産である土地の解説をします。
土地の取得には通常現金等の支払が必要になりますので、キャッシュ・アウトとして「有形固定資産の取得による支出」等の科目で表示されます。反対に、土地の売却はキャッシュ・インとして「有形固定資産の売却による収入」として表示されます。
土地の簿価増減だけでなく、売却益などが発生している場合には調整する必要があります。
この場合、損益計算書に計上されている該当資産の売却損益を参照し、まずは営業活動によるキャッシュ・フローから除外します。そしてこの調整額を簿価増減に加え実際の売却額(及び取得額)を投資活動によるキャッシュ・フローとして表示します。
減損損失の計上など、他にも土地金額が動く要因があった場合には、調整が必要な点に注意が必要です。また、対象資産の代金が未決済で未払金に残高が残るようなケースでは、該当する未払金の増減も加味する必要があります。
(2)建物、建物附属設備、構築物、機械装置、器具備品、車両、ソフトウェア等
有形固定資産の増減は通常投資活動によるキャッシュ・フローに分類されます。また、当然ではありますが、土地とは異なり、建物や建物付属設備などの資産は減価償却の対象となります。
これらの資産は取得時のキャッシュ・アウトを「有形固定資産の取得による支出」、売却時のキャッシュ・インを「有形固定資産の売却による収入」として表示します。この点は土地と相違ありませんが、減価償却費という非資金取引を考慮する必要があります。
減価償却費は非資金取引として営業活動によるキャッシュ・フローから除外(加算)し、通常は固定資産の増減と相殺する形で処理します。間接法によるキャッシュ・フローは税引前当期純利益から開始する関係上、減価償却費も減算された状態がデフォルトとなっているため、加算する必要があるということです。
減損損失の計上や、対象資産の代金が未決済で未払金に残高が残るようなケースで調整が必要な点は土地での解説と共通します。
(3)建設仮勘定、ソフトウェア仮勘定
建設仮勘定やソフトウェア仮勘定は、建物やシステム開発などが未完成の状態の支出を一時的に処理するための勘定です。建設仮勘定のキャッシュ・フロー計算書上の調整方法はいくつかありますが、ここでは比較的分かりやすい調整方法を紹介します。
まず、建設仮勘定の増加は、通常「有形(または無形)固定資産の取得による支出」としてキャッシュ・アウト項目として処理します。反対に建設仮勘定が減少する場合、基本的には本勘定への振替を意味します。こちらは帳簿上の振替にすぎず、キャッシュ・フローには直接の影響を及ぼしません。したがって、仮勘定の減少と本勘定の増加はキャッシュ・フロー精算表内で相殺し、キャッシュ・フロー計算書には表示しないこととなります。
建設仮勘定は通常減価償却を行いませんので、基本的に残高の減少は本勘定への振替額となります。
4.投資その他の資産の増減
投資その他の資産の増加または減少は、キャッシュ・フロー計算書において主に「投資活動によるキャッシュ・フロー」として処理されます。これらは企業の中長期的な資金運用や投資活動に関するものであり、営業活動とは区分して扱う必要があります。
• 投資その他の資産の増加:キャッシュ・アウト
• 投資その他の資産の減少:キャッシュ・イン

以下に、代表的な勘定科目について個別に解説します。
(1)長期貸付金
長期貸付金は、関連会社や取引先などへの資金の貸付に際して計上される資産であり、通常、キャッシュ・フロー計算書上では投資活動に区分されます。
増加は長期貸付けによる支出(キャッシュ・アウト)、減少は長期貸付金の回収による収入(キャッシュ・イン)を意味します。なお、営業活動以外については実際の支出・収入を総額で表示する必要があるため、貸付の実行(キャッシュ・アウト)と、貸付金の回収(キャッシュ・イン)を把握する必要があります。
長期貸付金の貸倒等、キャッシュの動きを伴わない増減も考えられますので、その場合には別途調整が必要となります(貸倒損失の計上がされている場合には、非資金取引として営業活動から除外する等)。
(2)投資有価証券
投資有価証券には、売買目的以外で保有される株式や債券などが含まれ、こちらも「投資活動によるキャッシュ・フロー」に計上されます。取得による増加はキャッシュ・アウト、売却による減少はキャッシュ・インとして処理されますが、取得額や売却額などの総額での収支の把握が必要です。
また、売却時に損益が発生する場合、当該損益は損益計算書上に「売却損益」として計上され、税引前当期純利益に含まれるため、そのままでは営業活動によるキャッシュ・フローに残ってしまいます。
そのため、営業活動によるキャッシュ・フローから除外(売却益の場合はマイナス、売却損の場合はプラス)の調整を行い、投資活動によるキャッシュ・フローへ振り替える必要があります。
さらに、決算時に時価評価を行っている場合、評価損益は帳簿上の処理であり、キャッシュの流出入を伴いません。たとえば、評価損益をPLに計上している場合には営業活動から除外し、評価差額金として純資産に計上されている場合には、その増減をキャッシュ・フロー計算書上で反映させないように、相殺調整を行う必要があります。
なお、税効果が適用されている場合があり、投資有価証券の増減額と、有価証券評価差額金は一致しないことがあります。その場合、対応する繰延税金資産、繰延税金負債の増減も相殺する必要がある点に注意が必要です。
実務上、特に混乱しやすい科目ですが、処理自体は規則的ですので、勘定科目の動きをよく理解してキャッシュ・フローに変換することが必要です。
(3)関係会社株式(子会社株式)
関係会社株式は、子会社や関連会社などへの出資や買収等によって取得するもので、通常、取得や売却に伴う資金の流れは投資活動によるキャッシュ・フローに分類されます。取得時の残高増加はキャッシュ・アウトとして「関係会社(子会社)株式の取得による支出」等の科目で表示し、売却時の減少はキャッシュ・インとして「関係会社(子会社)株式の売却による収入」等の科目で表示します。他の投資活動によるキャッシュ・フローと同様、取引金額を総額で把握し、反映させる必要があります。
また、売却損益が発生している場合には、損益計算書の税引前当期純利益に含まれるため、営業活動のキャッシュ・フローから除外(売却益の場合はマイナス、売却損の場合はプラス)したうえで、投資活動に振り替える処理が必要です。
多くの点で投資有価証券と処理が共通しますが、関係会社株式の場合、特殊なケースを除き時価評価による評価差額金の処理は発生しません。
なお、関係会社株式の取得、売却については連結と個別で表示方法が変わる可能性があります。
連結上、取得した関係会社株式の発行会社が新たに連結子会社に該当する場合、連結キャッシュ・フロー計算書上において、「連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出」等の科目で表示します。
反対に売却した関係会社株式の発行会社が連結子会社でなくなる場合、「連結範囲の変更を伴う子会社株式の売却による収入」とします。
このように、連結会計と個別会計の違いを意識しないといけない点にも注意が必要です。
5.終わりに
本稿では、貸借対照表の「資産の部」に属する主要な勘定科目について、それぞれの増減がキャッシュ・フロー計算書上どのように反映されるのかを解説しました。
資産の性質によって、キャッシュ・フロー計算書上の活動区分との関係にも一定の傾向があります。流動資産は主に営業活動に関連する項目ですが、その性質によっては財務活動や投資活動と関係するものも含まれます。一方、固定資産や投資その他の資産については、その多くが投資活動に分類される項目であり、中長期的な資金の支出・回収を伴う場合が多いです。
貸借対照表の残高の増減には、その背景に複数の会計処理があり、キャッシュフロー上どのように処理するか判断が必要となります。キャッシュ・フロー計算書の作成は、こうした貸借対照表の各項目の増減を、分解・再集計し、活動区分ごとのキャッシュの動きに変換していくことが非常に重要で中心的な作業となります。
次回(第四回)では、負債および純資産の部に焦点を当て、同様にその増減がキャッシュ・フローにどのように影響するのかを整理していきます。資金調達や内部留保といった要素を通じた、より全体的な資金の流れの把握につなげていきます。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
本稿と関連するテーマのコラムは以下の通りです。是非、以下の記事もご覧ください。
- 第一回 CF計算書計算構造から作成方法を解説 なぜ貸借対照表の増減がキャッシュ・フロー計算書になるのか?間接法の計算構造からCF計算書を読み解く
- 第二回 キャッシュ・フロー計算書計算構造から作成方法を解説 税引前当期純利益、非資金取引、各活動別のキャッシュ・フロー振替と貸借対照表増減との関係について
- 第四回 キャッシュ・フロー計算書計算構造から作成方法を解説 代表的な貸借対照表項目の具体的な増減分析の方法(負債の部、純資産の部編)
- 第五回 キャッシュ・フロー計算書計算構造から作成方法を解説 間接法によるキャッシュ・フロー計算書の計算構造とキャッシュ・フロー精算表の関係まとめ
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