結局ワラント債って何? 新株引受権、新株予約権、分離型、非分離型、多面的な視点からワラント債を解説
2025年8月4日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
「ワラント債」という言葉は、金融業界や企業の資金調達、投資実務において耳にすることがあるものの、その意味は文脈や時代背景によって少しずつ異なっており、なんとなくの意味で捉えられている方も多いのではないでしょうか。
この混同が生じやすい最大の原因はワラント債という言葉自体の意味が広範にも関わらず、法令上の概念や証券取引実務上の概念が少しずつ異なる点にあると思います。それぞれの文脈でワラント債(新株予約権付社債)の指す意味を理解することが重要です。
今回は、このようなワラント債の概念について解説をしたいと思います。
2.ワラント債とは何か
(1)ワラント債の意味と基本的な仕組み
ワラント債(bond with warrant)とは、社債に株式取得の権利(=ワラント)を付与したものであり、素直に和訳すれば新株予約権付社債を指します。これは、将来、あらかじめ定められた価格で発行会社の株式を取得できる権利が付された社債であるといえます。
しかし、その文字面だけの意味で捉えると様々な金融資産(発行者側からは負債)が含まれることになります。実際、実務上はより限られた範囲を対象とした意味で使われることが多く、混乱を招く要因になっているものと思われれます。本稿では解説のため、この法令上の定義を「広義のワラント債」と呼称します。
この広義のワラント債を金融商品としての性質の視点で見ると、投資家にとっては、社債としての固定的な利息収入に加え、企業の株価が上昇した場合にオプション的な収益を得られることが魅力といえるでしょう。発行企業側としても、資本性を帯びた資金調達手段として、財務戦略上有効な選択肢となります。
(2)広義のワラント債に当てはまる金融資産の分類
広義のワラント債には、以下のようなものが含まれます。
要するに、新株予約権が付与された社債全般がワラント債であるとした場合、以下のような代表的な金融資産(負債)が存在するものと思ってください。
分類 | 備考 |
A.新株予約権付社債 (分離型ワラント債) |
ワラント(新株予約権)部分を分離して取扱い可能。金融商品市場で多く取り扱われる。 |
B.その他の新株予約権付社債 (非分離型ワラント債) |
ワラント(新株予約権)部分が分離不可。予約権も一体として譲渡。オプションとしての独立性なし。CB以外のもの。 |
C.転換社債型新株予約権付社債 (CB – Convertible Bond – ) |
ワラント(新株予約権)部分が分離不可。権利行使(転換請求)をする場合、社債が株式に転換される(社債は存続しない)。 |
以降の解説においては、上記三分類を比較しながら解説を行いたいと思います。
3.法令上のワラント債
実は「ワラント債」という言葉は、現行の会社法上は使われていません。
しかし、「新株予約権付社債」については定められており、本項においてはこの法令により定められた定義を解説します。大切なことは、「ワラント債」≒「新株予約権付社債(法令上)」であり、両者は完全に一致するものではないということです。
この法令上の定義について、2002年の商法(現在の会社法の前身となる法律)改正が重要な影響を与えています。
この法改正で「B.その他の新株予約権付社債(非分離型ワラント債)」及び「C.転換社債型新株予約権付社債(CB-Convertible Bond-)」を合わせて「新株予約権付社債」とされるようになりました。
すなわち、「A.新株予約権付社債(分離型ワラント債)」はこの定義に含まれず、新株予約権と社債がそれぞれ独立した証券として発行されるため、あくまで「新株予約権+社債」を同時に募集したものとして取り扱われます。結果、会社法上の規定対象から外されているのです。
分類 | 該当 | 備考 |
A.新株予約権付社債 (分離型ワラント債) |
× 該当しない |
単に、新株予約権と社債を同時に募集したというスキーム(仕組み)として扱われる。 |
B.その他の新株予約権付社債 (非分離型ワラント債) |
〇 該当する |
法改正により、「新株予約権付社債」の概念に統合された。 |
C.転換社債型新株予約権付社債 (CB – Convertible Bond – ) |
〇 該当する |
法改正により、「新株予約権付社債」の概念に統合された。 |
4.証券取引実務上のワラント債(新株予約権付社債)
法令上の定義に対して、証券市場において「ワラント債」と言えば、分離型の新株予約権付社債を指すのが通例です。
特に上場企業による公募・私募においては、分離型ワラント債の流通量が多く、一定の市場規模を形成していることもイメージを定着させる要因の一つとなっているものと思われます。証券会社による一括引受後に、社債部分とワラント部分を別々に販売するスキームが確立されており、投資商品としてワラント債といえば分離型ワラント債を指すのが一般的です。
分類 | 該当 | 備考 |
A.新株予約権付社債 (分離型ワラント債) |
〇 該当する |
証券取引上、流通量も多く「ワラント債」というと分離型ワラント債を指す。 |
B.その他の新株予約権付社債 (非分離型ワラント債) |
× 該当しない |
通常は該当しない。 |
C.転換社債型新株予約権付社債 (CB – Convertible Bond – ) |
× 該当しない |
通常は該当しない。 |
5.まとめ
このように、法令上の概念と、証券取引実務上の概念でそれぞれ対象とする範囲が異なる(この範囲に限って言えば真反対)になるにも関わらず、ワラント債や新株予約権付社債という言葉自体はそれぞれを包含する意味に捉えられることから、混乱をきたすものと思われます。
それぞれの概念をまとめると以下のようになります。
6.終わりに
ワラント債と新株予約権付社債は直訳すると同じような意味になりますが、両者は必ずしも同じものと思わない方が良いでしょう。それぞれの文字面だけを捉えると大変広範なものとなりますが、実際の使われ方はより狭義の意味に使われることとなります。
一体どのような意味で使われているのか、その状況や対象とする資産(負債)によって正確な判断をお行うことが必要です。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
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