新たに子会社株式を取得した場合の連結キャッシュ・フロー計算書上の表示方法
2024年10月2日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
M&Aが成長戦略として定着しつつある現在、新規の子会社取得を行う企業も増えています。
子会社を取得した場合、その重要性によっては連結範囲から外れることもありますが、基本的に連結範囲に新たな子会社が加わることとなります。
この連結範囲に新たな企業が加わる場合、連結キャッシュ・フロー上どのように取り扱われるかご存知でしょうか。頻繁にM&Aを行う企業でなければ、稀にしか行われない事ですので、どのような処理をするか分からない方も多いと思います。
本コラムでは、キャッシュ・フロー計算書の概要から新規子会社取得時の具体的な処理までを解説します。なお、本コラムでは新たに取得した子会社が連結範囲に含まれる場合を想定しており、特に説明の無い限り、子会社の新規設立や、子会社の重要性が増したことにより連結範囲に含まれる場合は前提としておりません。
2.連結キャッシュ・フロー計算書とは
連結キャッシュ・フロー計算書は、親会社とその子会社を含む企業グループ全体のキャッシュの流れをまとめた報告書です。連結キャッシュ・フロー計算書では、企業の営業活動、投資活動、財務活動における資金の流れを明示し、損益計算書では分からないキャッシュの動きを報告することを目的としています。新規子会社が連結範囲に入る場合、ある意味この連結キャッシュ・フロー計算書の前提が変わることになってしまいます。
ここでキャッシュとは現金や普通預金、当座預金だけではなく、容易に換金可能で価格変動に対して僅少なリスクしか負わない短期投資も含まれます。本稿では、以降、この現金同等物について混乱を避けるため「キャッシュ」と呼称します。
3.連結キャッシュ・フロー計算書の取り込み開始時点について
新規連結子会社については、その取得日(連結開始日)以降、連結キャッシュ・フロー計算書に組み込まれることとなります。
なお、通常、株式譲渡日が子会社の決算日と異なる場合には、前後いずれかの決算日(四半期含む)に、取得したとみなして処理します(みなし取得日)。
なお、連結開始以降については、通常の連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法と大きく異なる点はありませんので、新規連結時に最も特徴的な処理を行うことになります。
そのため、以降では新規連結時にどのようにキャッシュの動きを表現するかを解説したいと思います。
4.新規連結子会社取得時のキャッシュの動き
新規子会社を取得する際のキャッシュ・フローには、(1) 子会社を取得するために支払ったキャッシュの減少(キャッシュ・アウト)と、(2) 取得された子会社が保有しているキャッシュの増加(キャッシュ・イン)の二つの側面があります。
(1)子会社株式の取得(キャッシュ・アウト)
対価なく株式を取得する場合や、キャッシュ以外を対価とする場合を除き、M&A等を行う場合、通常は対象株式を取得するためにキャッシュを支払います。
このキャッシュは連結グループから外部へ出ていくことになりますので、連結キャッシュ・フロー計算書上、キャッシュ・アウト項目として認識する必要があります。
具体的には、子会社の株式を買い取るために支払ったキャッシュを「投資活動によるキャッシュ・フロー」として表示することとなります。
(2)新規子会社の所有していたキャッシュの増加(キャッシュ・イン)
一方、新規子会社が保有しているキャッシュは、連結グループのものとなりますので、キャッシュが増加することとなります。
このキャッシュの増加は、「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャッシュ・フロー」、「財務活動によるキャッシュ・フロー」のいずれにも含めず、連結キャッシュ・フロー下部に「新規連結に伴う現金及び現金同等物の増加額」という特別な項目を設けて記載します。
5.最後に
一定の企業を除き、新規の子会社取得は頻繁に行われるものではありません。
しかし、もし普段行わない子会社の取得があったとしても慌てる必要はありません。子会社取得時の連結キャッシュ・フロー計算書上の取り扱いは決まっていますので、キャッシュ・アウトとキャッシュ・インを分けて理解し、適切に表示するようにしましょう。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。