取締役が顧問になった後、顧問を辞めたときの退職金は税務上認められる?
2026年8月6日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに
企業の取締役であった者が退任後顧問になるということは珍しくありません。
そしてやがてその顧問も辞めるとき、退職金を支給するか否か、支給した場合に税務上どのように扱われるか考えたことはあるでしょうか。
本記では、この「顧問をやめるときに支払う退職金」が税務上の退職給与として認められるかどうかを解説します。その前提として、顧問になった時点でその役員がすでに退職したものと扱われているかどうかが重要なため、取締役が顧問になったときの扱いを確認したうえで、本題である顧問をやめるときの退職金の扱いを、経営者・経理担当者の視点から整理します。
2.取締役が顧問になったときに退職したと扱われるか
顧問をやめるときの退職金を考える前提として、取締役が顧問になった時点で、その役員がすでに退職したものと扱われているかどうかが重要です。
退職金が税務上の退職給与として認められるのは、実質的に役員を退職したといえるタイミングであり、それが顧問になるときなのか、後の顧問をやめるときなのかをまず検討する必要があります。
結局、実際に退任したのはどちらのタイミングなのかが重要ということです。
(1)顧問になることが実質的な退職にあたるか
取締役から顧問になる場合、役員としての地位や職務の内容が大きく変化し、実質的に退職したと同様と認められれば、その時点で退職したものと扱われます。判断の目安としては、次のような点が挙げられます。
- 経営の意思決定に関与しなくなったこと
- 代表権や決裁権限を持たなくなったこと
- 報酬の大幅な減少(実務上、50%程度以上の減少が一応の目安とされますが総合判断が必要です)
これらに形式的に当てはまっても、実際には経営に関与し続けている場合は、退職の事実がないと判断される可能性があります。形式上の扱いのみで税務上退職金と扱うと後々否認されるおそれがありますので、注意が必要です。
(2)顧問がみなし役員に該当する場合
顧問は通常役員ではありませんが、経営に従事し、株式の保有状況などの要件を満たす場合は、税務上の役員(みなし役員)として扱われることがあります。みなし役員に該当すると、顧問になっても役員のままと同じ扱いになり、顧問になった時点では退職したとは扱われません。肩書きが顧問であるという理由だけでは役員でないと判断できない点に注意が必要です。
(3)顧問になったときの扱いは大きく2つに分かれる
以上から、取締役が顧問になったときの扱いは、おおむね次の2つに分かれます。
- 顧問が経営に関与しない場合は、顧問になった時点で実質的に退職したと扱われ、以後は役員ではなくなる
- 顧問が経営に関与し続ける(みなし役員に該当する)場合は、顧問になった時点では退職と扱われず、役員のままと同じ状態が続く
この2つのどちらにあたるかが、次に解説する顧問をやめるときの退職金の扱いに大きな影響を与えます。
前者は顧問になったタイミングで退職したと認められますが、後者は顧問になったタイミングで退職したとは認められていません。
もう一点注意したいのは、顧問になった時点で退職金を受け取っているか否かです。退職金を受け取ったかどうかで退職の判定が変わるわけではありませんが、受け取っている場合、役員期間に対応する退職金はその時点で精算済みとなります。そのため、経営に関与しない顧問として勤務した後にその顧問をやめるときに支払う金銭は、税務上の退職金(退職給与)としては扱えなくなる可能性が高まります。
なお、退職金を受け取ったにもかかわらず経営に関与し続けている場合には、退職そのものが否認され、支給済みの退職金が役員給与(賞与)として損金不算入となるリスクがある点にも注意が必要です。
3.顧問をやめるときに退職金は認められるか
顧問をやめるときに支払う退職金が認められるかどうかは、前の章で確認した「顧問になった時点で退職と扱われていたか」によって、結論が分かれます。
(1)顧問になった時点で退職したと扱われている場合(役員でない顧問)
顧問になった時点で実質的に退職したと扱われ、その後は役員でない純粋な顧問であった場合、顧問をやめることは役員の退任ではありません。退任とならなければ、顧問契約の終了に伴って支払う金銭は役員退職金にはあたらず、受け取る本人の側でも退職所得には該当しません。通常は給与所得や雑所得等(退職所得以外)などとして扱われます。
さらに、提供された役務に見合わない金銭であれば、対価性のない支出として寄附金とみなされ、損金に算入できないおそれすらあります。すでに顧問になった時点で退職金を受け取っている場合は、なおさら、顧問をやめるときの支払いは退職給与として認められにくくなります。
(2)顧問になった時点では退職と扱われていない場合(みなし役員)
顧問がみなし役員に該当し、顧問になった時点では退職と扱われていなかった場合は、顧問をやめることが初めての役員の退任にあたります。このため、このタイミングで支払う金銭は役員退職金として認められる可能性は高いでしょう。
損金算入の時期は、株主総会の決議などによって支給額が具体的に確定した事業年度となるのが原則です。
もっとも、実態によっては分掌変更として取り扱われるなど、必ずしも一律に整理できないこともありますので注意が必要です。
(3)二度目の退職金になる場合の注意
顧問になった時点で退職金を受け取っており、その後さらに顧問をやめるときにも退職金を支払う場合は、特に慎重な検討が必要です。最初の退職金が実質的な退職を理由に認められたのであれば、その後の顧問の期間は経営の主要な地位にないことが前提となります。そのため、その期間に対応する二度目の退職金については、退職給与としての性質や金額の相当性について、より厳格に判断されやすくなります(退職金として扱われない可能性があります)。
4.役員退職金の一部を未払とし、顧問退任時に支給する場合
取締役を退任する時点で役員退職金の総額を株主総会で決議し、その一部だけを支払って残りを未払とし、後の顧問退任時に支給する、という方法も考えられます。これは、顧問退任時に新たな退職金を出すのとは異なり、あくまで役員退任時に確定した退職金を分割して支払う形です。
(1)退職金が確定する時期と未払の扱い
役員を完全に退任し、実質的に退職したと認められる場合、役員退職金の損金算入の時期は、株主総会の決議などによって支給額が具体的に確定した事業年度となるのが原則です。総額を退任時に確定していれば、会社に支払義務が生じていることを前提として、未払とした部分も含めて、その事業年度に損金算入できるのが基本です。ただし、支給額や支払時期が不確定である場合には、債務として確定しているとはいえず、損金算入が否認される可能性があります。
退任時に総額を確定し、一部を未払役員退職金として計上しておけば、後に支払う部分も役員退職金の一部として扱える可能性は高まります。
(2)分掌変更にとどまると未払が認められない場合もある
一方、顧問になっても実質的に経営に関与し続けるなど、完全な退職ではなく分掌変更(役員の地位や職務が大きく変わること)にとどまると判断される場合は、退職金として扱われない可能性があります。退職の事実が弱いと、退職給与として認められないおそれがある点に注意が必要です。
(3)支給時期を顧問退任に関連づけることの税務リスク
未払分の支払時期を顧問退任という事由に結びつけると、いくつかの税務上リスクが生じます。
まず、支払いが将来の別の事由に左右されることで、退職金の額や支給時期が退任時に確定していたといえるかについて疑義が生じ、結果として損金算入が否認されるリスクが高まります。また、顧問として在籍し続けた末に支払うことから、そもそも役員退任時に実質的に退職していたのかという点にも影響しかねません。
未払として残す以上、支給時期はある程度明確にしておくのが通常ですが、顧問の退任時期は分からないことも多く、結果として二度の退職金支給とみなされる可能性もあります。結果、「顧問退任時に役員退職金相当を繰り越そう」という考えで支払いを留保(未払)することは税務リスクを伴うことから、筆者としてはお勧めしません。
5.税務上のリスクと実務上の留意点
ここまでの内容を踏まえ、実務で特に注意したい点を整理します。
(1)経営上主要な地位の判断
退職したと扱われるかどうかは、肩書きではなく実態で判断されます。過去の裁決でも、職務の内容、役員会などへの関与の度合い、対外的な代表性、報酬の水準といった複数の観点から、経営上主要な地位を占めているかが実質的に判断されています。顧問になった後も実質的に経営を動かしていれば、顧問就任時には退職と扱われず、退職金が認められるのは顧問退任時にずれ込む可能性が高まります。
(2)支払方法と寄附金のリスク
退職給与のうち未払金として計上した部分については、分掌変更(役員の地位や職務が大きく変わること)に伴う場合には、その計上時点では損金算入は認められず、原則として実際に支払った事業年度において退職給与として損金算入されることとなります。
したがって、支払いを分割するときは、退任の実態が「完全退任」か「分掌変更」にとどまるかによって、損金算入時期が異なる点に留意する必要があります。また、役員でない顧問への支払いは提供される役務に見合うことが必要で、名目だけの慰労金は寄附金とみなされるリスクがあります。
(3)受け取る本人の課税
退職金が退職所得として認められる場合、本人の側では、収入金額から退職所得控除額が差し引かれるなど、税務上の負担が減少することが多いです。ただし、役員等としての勤続年数が5年以下の場合(特定役員退職手当等)は、この2分の1の取扱いが適用されません。また、過去に受け取った退職手当等との間で勤続期間が重複する場合には、退職所得控除の計算において勤続期間の重複調整が行われるため、短期間に複数回退職金を受け取るときは税負担が想定より重くなることがあります。
6.終わりに
本記事の主眼である顧問をやめるときの退職金が認められるかは、その前提として、顧問になった時点でその役員がすでに退職したと扱われていたかどうかが非常に重要です。
役員でない純粋な顧問であれば、退職はすでに顧問就任の時点で済んでいるため、顧問をやめるときの退職金は認められにくくなります。一方、顧問がみなし役員にあたる場合は、顧問をやめるときが初めての役員退任となり、このとき退職金が認められる余地があります。いずれも実態に基づく判断が必要であり、判断に迷う場面では、事前に専門家へ相談し、根拠となる事実を残しておくことが大切です。
最後までお読みいただきありがとうございました。本記事が皆様の実務の一助となれば幸いです。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
弊事務所では、顧問税理士、税務に関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。
