非適格組織再編等における短期重要負債調整勘定の取り扱い
2024年11月22日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
企業の合併を始めとした組織再編や事業譲渡において、多くの場合では債務の引き受けが発生します。
中でも非適格組織再編及び事業譲渡(以降、非適格組織再編等という)においては、資産調整勘定や、負債調整勘定といった勘定が税務上計上されることがあります。
その中の一つに「短期重要負債調整勘定」というものがあります。
本コラムではこれら負債調整勘定の内、短期的に履行が見込まれる「短期重要負債調整勘定」についての基本概念、処理方法について解説します。
2.短期重要負債調整勘定の定義
短期重要負債調整勘定には複数の条件があります。
最初に法人税上の定義から入ると難しいと思いますので、少し簡略化すると以下のようになります。
短期重要負債調整勘定とは、組織再編等が行われた場合にあって、移転を受けた事業等に関連する将来の債務のうち、当該事業の利益に重大な影響を与えるもので、その履行が概ね3年以内に見込まれるものを言います。
これでもまだ素直に理解するには難しいと思います。
ちなみに、法人税法上の記述は以下の通りです。
法人税法第62条の8第2項第2号 二 当該内国法人が当該非適格合併等により当該被合併法人等から移転を受けた事業に係る将来の債務(当該事業の利益に重大な影響を与えるものに限るものとし、前号の退職給与債務引受けに係るもの及び既にその履行をすべきことが確定しているものを除く。)で、その履行が当該非適格合併等の日からおおむね3年以内に見込まれるものについて、当該内国法人がその履行に係る負担の引受けをした場合 当該債務の額に相当する金額として政令で定める金額(第6項第2号において「短期重要債務見込額」という。) |
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最後に記載のある「短期重要負債見込額」については、以下のように記述されています。
8 法第62条の8第2項第2号に規定する政令で定める金額は、同号に規定する債務の額(当該債務の額に相当する金額として同号の事業につき生ずるおそれのある損失の額として見込まれる金額が同号の非適格合併等により移転を受けた同条第1項に規定する資産の取得価額の合計額の100分の20に相当する金額を超える場合における当該債務の額に限る。)に相当する金額とする。 | ||
3.短期重要負債調整勘定の計上基準
(1)計上基準の概要
定義に記載されている要件を分解し、要件のポイントを抽出すると、以下のような要件に区分できます。
【対象債務の要件】
① 移転を受けた事業に係る将来の債務
② 当該事業の利益に重大な影響を与えるものに限る
③ 退職給与債務引受けに係るものを除く
④ 既にその履行をすべきことが確定しているものを除く
⑤ その履行が当該非適格合併等の日からおおむね3年以内に見込まれる
【金額の要件】
⑥ 移転した事業につき生ずるおそれのある損失の額
⑦ 移転資産の取得価額の合計額の100分の20に相当する金額超える
4.短期重要負債調整勘定の具体的な内容
負債調整勘定には、退職給与負債調整勘定なども存在しますが、それらと比べると短期重要負債調整勘定の範囲は漠然としています。
しかし、この定義からは、金額的規模の大きいものあり、既に貸借対照表に計上されているような確定債務が対象ではないことが明記されています。
そのうえで事業の利益に重大な影響を与えるものであるということを踏まえると、おそらく、非適格組織再編等の際に行われる設備の閉鎖や、重要債権の放棄、人員の整理(いわゆるリストラクチャリング)等によって発生する見込みの高い損失が対応するものと予想できます。
これは、短期重要債務見込額の要件の中で「損失」と表現されている点にも、表れているものと思われます。
5.最後に
短期重要負債調整勘定については、頻出するような項目ではなく、明確な実例等にあたりにくいため判断に迷うことがあると思います。
しかし、企業の合併や再編において非常に重要な要素であり、再編後のリストレクチャリング等を予定している場合には、短期重要債務調整勘定に該当する可能性があり、大きな影響を及ぼす可能性があるのです。
多くのケースで発生するようなものではありませんが、検討から漏れないように注意しましょう。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。