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2025年09月22日
IPO-COLUMN-

プライム?スタンダード?グロース? IPOに向けた日本の代表的な3市場を徹底比較 スタートアップ企業目線の解説

2025年9月22日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

東京証券取引所(東証)は2022年に「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「JASDAQ」の旧4市場を再編し、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3市場体制へと移行しました。

この再編は、国内外の投資家にとっての市場の透明性と利便性を高めることを目的としているとされています。また、再編後は市場ごとに求められる企業像がより明確となり、それに伴って投資家層にも変化が生じています。特にプライム市場では国際的な競争力を強める意向があり、開示水準やガバナンス体制への要求は一層厳しいものとなっています。

この点、これから上場を目指す企業がどの市場を目指すか、あるいはどの市場で上場後の持続可能な成長を実現するかは、極めて重要な判断といえます。本稿では、東証における3つの市場の違いを整理し、成長企業の視点から見た市場選択とその実務的な留意点について解説します。


2.各市場の基本的な概要

(1)プライム市場の特徴

① プライム市場の位置づけ

プライム市場は東証の最上位に位置づけられ、主に国際的な機関投資家を対象とする高い開示水準とガバナンスが求められる市場です。中長期的な企業価値の向上と投資家との建設的対話が求められる点において、単に期待されるだけでなく、実質的な対応の強化が強く求められています。

これらのハードルは成長過程にあるスタートアップ企業は厳しいものであり、多くの場合、最初に目指す市場としては珍しく、上場実績としても非常に限られた数にとどまっています。
ただし、創業間もないスタートアップ企業やベンチャー企業ではなく、非上場であったが既に事業規模のある企業がプライム市場へ上場を目指すことはあります。

② 上場基準と維持基準

流通株式時価総額100億円以上、株主数800人以上などが求められます。ガバナンス・コードの高水準な遵守、英語による情報開示など、グローバルな資本市場を意識した体制が前提とされています。維持基準も新規上場基準と同等の水準が求められ、これを継続的に満たす義務があります。


(2)スタンダード市場の特徴

① スタンダード市場の位置づけ

スタンダード市場は、一定の成長段階にある中堅企業向けの市場で、企業の持続可能な発展を目指す場として機能しています。ガバナンスと成長性の両立を重視した制度設計がされています。
中堅といってもあくまで上場企業の中での話であり、企業としては既に一定規模をもつ優良な企業が多く上場しています。

スタートアップ企業がスタンダード市場を目指すことも可能ではありますが、スタンダード市場が要求する企業像が急成長を目指すこれらの企業と一致しない部分があります。
スタンダード市場は比較的歴史のある企業や、爆発的な成長を目指すわけではないが一定の成長が見込まれるような企業をメインターゲットとしているため、相対的に限られた選択肢といえます。

② 上場基準と維持基準

流通株式時価総額10億円以上、株主数400人以上が求められます。維持基準に関しては、プライム市場やグロース市場と制度上の構成に違いはあるものの、基本的には新規上場時の基準を継続的に満たす必要がある点は共通しています。


(3)グロース市場の特徴

① グロース市場の位置づけ

グロース市場は、将来の高成長が期待される企業をメインターゲットした市場です。短期的な実績よりも、成長可能性とそれを裏付ける明確な事業計画、継続的な情報開示が重視されます。

最もスタートアップ企業との相性が良い市場であるといえます。
実際に多くのスタートアップ企業がグロース市場で上場しており、他の市場と比較して実績数が圧倒的に多いこともその特徴を物語っています。
スタートアップにとって現実的かつ有力な候補市場といえるでしょう。

② 上場基準と維持基準

流通株式時価総額5億円以上、株主数150人以上、流通株式比率25%以上(新規上場時は30%以上)が求められます。上場後、これらの基準を維持できない企業も散見され、制度上の課題が指摘されています。今後、上場審査基準が厳格化される可能性がある点については、スタートアップ企業にとって特に注視すべき事項です。


3.企業のタイプ別 適合市場の考え方

東証3市場にはそれぞれ異なる役割と上場企業像が設定されており、市場ごとに対象としている企業の性格や成長ステージに違いがあります。
そのため、どの市場を目指すかは自由であるものの、ある程度企業の規模やビジネスの成熟度に応じて、適した市場が自然と絞られてきます。
以下では、企業の性格や経営方針などに着目した分類を行い、それぞれに適した市場について整理します。

(1)上場企業の中でも知名度が高い、企業規模の大きな企業など

国内外において知名度があり、企業規模や収益力が高く、ステークホルダーに対する説明責任も十分に果たせる体制が整っている企業は、プライム市場が検討対象となります。国際的な機関投資家を含む投資家層との対話や、ガバナンス・情報開示の高度化に耐えうる体制が前提となるため、そのような条件を満たす企業にとっては、プライム市場との親和性が高いといえます。

(2)急成長を望まないが、企業規模が一定以上、歴史が長い企業など

急成長を志向するわけではなくとも、歴史の長い企業や、一定成長を長期間見込む企業、地域密着型の事業展開や安定収益型のビジネスを展開しているような企業は、スタンダード市場が適していると考えられます。特に、上場企業として十分なガバナンス対応や開示体制を整備できる一方、プライム市場ほどの厳格な基準に対応することは難しい場合、スタンダード市場との親和性が高いといえるでしょう。

(3)急成長を望むベンチャー企業など

革新的な技術やサービスをもとに急成長を目指すスタートアップ企業、ベンチャー企業には、グロース市場はまず検討すべき有力候補となります。これまでの過去実績よりも成長可能性やビジョンが重視されるため、上場を資金調達、採用強化、認知度向上の手段と位置づけるベンチャー企業にとって相性が良い市場といえるでしょう。上場後も成長ストーリーの実現を裏付ける開示やIR活動が求められます。


4.実務上の留意点

(1)上場審査で見られるポイント

市場区分に応じて、審査で求められる視点は異なります。
プライム市場では、高度なガバナンス体制や英語開示、流通株式の充実度は特に重要な審査ポイントとなるでしょう。スタンダード市場では、業績の安定性や開示水準の整備、IR体制の確立が重視されます。グロース市場では、事業計画の実現を始めとした成長可能性を多角的かつ深度ある視点から検証され、また継続的な情報開示が可能かなども焦点となります。

(2)市場変更(ステップアップ・ダウン)の留意点

市場変更には、新規上場基準と同様の厳格な審査が伴います。
近年、プライム市場の上場維持にかかるコストや、ガバナンス水準の高度化に対応できないことを理由に、スタンダード市場への移行ではなく、MBO等による非公開化を選択する企業も増加しています。これらは、上場企業の在り方が問われている今、上場を維持する以外の道も含めた、経営戦略の策定が広がりつつあるということでしょう。


.終わりに

スタートアップ企業の目線からすると、まずはグロース市場がそのターゲット市場の有力候補となるでしょう。実際に上場数を見てもグロース市場が他の市場より多い状況にあり、市場の求める企業像がスタートアップ企業にとって適していることが背景にあります。

スタートアップ企業にとって、上場は成長資金の確保や知名度の向上など多くのメリットをもたらし、非常に大きなイベントの一つであることは間違いありません。
しかし、いずれの市場においても上場はゴールではなく、あくまで新たなスタート地点であるという認識は必要です。
上場後も流通株式時価総額や株主数、情報開示水準など、継続的に求められる基準を満たし続けることが求められます。基準を満たさない場合、上場廃止のリスクも現実味を帯びるため、上場準備段階から上場後の体制整備までを視野に入れた戦略が必要です。

本稿が、これから上場を目指すスタートアップ企業の皆さまにとって、有益な指針となれば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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