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2025年04月17日
IPO-COLUMN-

ベンチャー企業のエグジットにはIPOしかないのか? 代表的な二つのエグジット方法IPOとM&Aの比較

2025年4月17日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

 

1.はじめに

ベンチャー企業にとって、エグジット(Exit)は重要戦略の一つであり、投資家にとってみれば代表的な最終目標、投資家からすれば企業の最高意思決定機関である株主が変化する無視することのできないイベントです。このエグジットの方法について、ベンチャー企業と聞くとIPOを大上段に構えなければならないように感じるかもしれませんが、実際にはM&Aが幅広く利用されています。

本コラムでは、このベンチャー企業の代表的なエグジット方法であるIPOとM&Aを比較し、それぞれの特徴とメリット、デメリットを解説したいと思います。ただし、これらのエグジット方法はその時々の市況の影響や、相対取引においては取引条件に大きな幅があることから、絶対の尺度とはならず、それぞれの環境に応じた判断が求められます。
あくまで全体的な傾向や基本的な考え方であるという点にご留意ください。


2.ベンチャー企業の代表的なエグジット方法

(1)IPOの概要

IPO(新規株式公開)とは、企業の発行する株式が証券取引所に上場し、株式を市場で公開(売買可能な状態)することを指します。IPOを実施することで、企業は大規模な資金調達を行うことが可能となり、信用力の向上やブランド価値の向上にもつながります。

IPOの主なメリット

  • 資金調達:
    ⇒公募増資によって企業が多額の資金を得ることが可能
  • 企業価値の向上:
    上場により知名度や信用力が強化される
  • キャピタルゲイン:
    ⇒上場後の株式売却により利益を得ることが可能

IPOの主なデメリット

  • 上場準備の負担が大きい:
    ⇒内部管理体制の整備や審査対応が必要
  • 新規上場、上場維持の費用負担:
    ⇒監査費用や引受手数料、上場維持費用などの負担が発生
  • 経営の自由度が低下:
    ⇒多くの株主の意向を考慮し経営方針を決定する必要がある

(2)M&Aの概要

M&A(合併・買収)とは、他社による買収または合併を通じて企業(株式)の所有が移転することを指します。M&Aを活用することで、創業者や投資家は短期間でまとまった資金を得ることが可能です。

M&Aの主なメリット

  • 迅速なエグジットが可能:
    ⇒IPOと比較して短期間でのエグジットが可能
  • 手続きが簡素:
    ⇒IPOに比べ監査、審査の負担が少ない

M&Aの主なデメリット

  • 買収先選定の重要性:
    ⇒買収企業を探してくる必要がある
  • 経営の独立性:
    ⇒多くの株主が参画するIPOに比べ意思命令系統が一極化することが多く、買収企業の意向に従う必要がある
  • 経営体制の変化:
    ⇒買収企業の意向によっては、買収実行後の経営体制が変わることがある

3.IPOとM&Aの比較

(1)金銭面の比較

上場後の株式売却によって創業者や投資家も利益を得ることが可能であり、比較的株式全体の時価総額はM&Aに比べて大きくなりやすいといえます。また、IPOでは、公募増資によって多額の資金を市場から調達することも可能であり、企業の財政基盤の強化や成長資金に充てることも出来ます。

一方、M&Aの場合、買収金額には大きな幅があります。買い手企業の評価、交渉次第でIPOを超える価値をつけることも可能ではあるものの、多くの場合、IPOの方が株式全体の価値は大きくなる傾向にあります。
株主に株式の売買代金が入りますが、株式を発行している企業には資金が入らないことが多く、企業の財政基盤が強化されるとは限りません。こちらも会社に資金を入れることが出来ないわけではありません。あくまで募集と売出の配分を選択しやすいIPOに比べると自由度が低いと考えて下さい。

(2)所要期間の比較

IPOは、複数の機関による監査や審査を必要とし、上場審査のプロセスに早くとも3年程度の準備期間を要します。特に、監査法人の会計監査や証券会社の上場審査の対応など、長期間にわたる取り組みが必要です。

一方、M&Aは、買収交渉が成立すれば比較的短期間でエグジットが完了します。
デューデリジェンス(企業調査)に時間がかかることもありますが、通常は数ヶ月から1年程度で手続きが完了するケースが多いでしょう。

(3)達成までの難易度の比較

IPOは、一定の業績基準を満たし、厳格な審査をクリアする必要があります。特に、継続的な収益成長や内部統制の整備が求められ、対処しなければならない課題は多岐に渡ることから、達成までの難易度は高いといえます。

M&Aは、適切な買収企業を見つけることが重要であり、候補先企業が見つかってからは条件の折り合いがつけば早期に実行が可能です。ただし、相手企業の条件次第では交渉が難航することもあるため、案件によって難易度の幅が広いのが特徴です。
また、買収価格や条件の折り合いがつかない場合は、そもそも取引が成立しない可能性もあるため、簡単に実現できるというわけではありません。ただし、買収企業のニーズに合致するかどうかが重要となるため、比較的柔軟な形で妥結することが可能です。


4.終わりに

IPOとM&Aは、それぞれ異なる特徴を持つエグジット手法です。これらは優劣があるものではなく、そのメリットとデメリットを踏まえて実行することが大切です。
また、方針としてどちらかに絞らなければならないというものでもありません。現実的には、いずれの方法も視野に入れながら事業を進める上場準備企業は数多く存在します。

IPOは、比較的大規模な資金調達が可能であり、企業のブランド価値向上にもつながる一方で、準備期間が長いのが特徴であり、M&Aは、比較的短期間でのエグジットが可能ですが、買収金額は買収企業の意向に依存する面があります。

どちらがより適しているかは、まず企業の状況が大切であり、成長ステージや市場環境によっても異なります。後悔のないエグジットとなるよう、本稿が理解の一助になれば幸いです。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


弊事務所では、新規株式公開(IPO)やM&Aに関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。

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