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2026年08月27日
IPO-COLUMN-

スタートアップの現実と課題 資金調達・イグジット・IPO準備で経営者が知っておきたいこと

2026年8月27日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

革新的なアイデアと高い成長性を武器に、数多くのスタートアップ企業が生まれています。
大きなリターンへの期待から注目を集める一方、その華やかなイメージの裏側には、乗り越えるべき厳しい現実が存在します。

本コラムでは、スタートアップ支援に携わってきた立場から、経営者があらかじめ知っておきたい現在の環境と課題を整理します。夢や希望だけでなく、資金・出口戦略・上場準備といった現実的な側面にも光を当てます。


スタートアップにとって、初期段階の資金調達は事業が軌道に乗るまでの生命線です。近年は市場環境が大きく変化しており、数年前の常識がそのまま通用しなくなっています。

IT、ヘルスケア、フィンテック、そして近年は生成AI関連の分野が特に注目を集めています。
先端技術を扱う領域は資金を集めやすい傾向がありますが、注目度の高さが成功を約束するわけではありません。成熟した市場では競争が厳しく、参入障壁も高いため、卓越したアイデアや新しいビジネスモデル、確かな技術力をもって臨む必要があります。競合となる企業の多くは経験豊富な実力者であることを、冷静に認識しておくことが大切です。                   

足元の国内スタートアップの資金調達は、総額こそおおむね横ばいで推移しているものの、その中身は変化しています。投資家の選別姿勢が強まり、一社あたりの調達額(中央値)は低下傾向にあります。プレシリーズやエクステンション(延長)といった中間的なラウンドを重ねる例も増え、資金調達は長期化・複雑化しています。

また、資金の出し手にも変化がみられます。実質的に大規模な出資が可能なベンチャーキャピタルは限られており、事業会社やそのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、金融機関の存在感が増しています。事業会社によるスタートアップ株式の取得を後押しするオープンイノベーション促進税制のような制度も設けられており、資本政策の選択肢は以前より広がっています。

これまで総業年数の浅さや赤字を理由に、スタートアップと銀行融資の相性は良くないとされてきました。
近年でもエクイティに比べて相性が良いとまでは言いませんが、返済スケジュールを見通しやすく、バリュエーション(企業価値評価)の変動を受けにくいデットを活用するケースも増えています。
銀行によるベンチャーデットの取り組みも広がりつつあり、融資実務の考え方を業界として体系的に示す動きもみられるなど、環境整備が進んでいます。エクイティ(株式)一辺倒ではなく、デットも組み合わせた多角的な資本政策の重要性が高まっています。


スタートアップの出口(イグジット)といえば、これまで日本ではIPO(新規株式公開)が第一に意識されてきました。しかし、最近ではその前提が見直されつつあります。

東証グロース市場では上場維持基準が見直され、上場から一定期間の経過後に相応の時価総額を求める方向へと厳格化されました。これにより、上場後も高い成長を継続して示すことが求められ、スタートアップにとってIPOは以前より高い壁となっています。上場の時期が後ろ倒しになれば、その分だけ長く成長資金を確保し続ける必要が生じます。

こうした環境を背景に、M&Aによるイグジットが現実的な選択肢として広がっています。国内のM&A市場全体が活況を呈するなかで、スタートアップの被買収・子会社化の件数も増加傾向にあります。国が示す投資契約の考え方においても、出口をIPOに限定せず、M&Aなども合理的な手段として位置づける方向が示されました。

ただし、スタートアップのM&Aには固有の難しさがあります。複数回の資金調達を経て株主構成が複雑になることが多いだけでなく、優先株式の条件しだいで株主間の利害調整が難航することがあります。
また、将来性は評価されても実績が乏しいケースが多く、直近の調達時の株価より売却価額が下回ることも少なくありません。出口の設計は、売却を決めてから着手するのでは遅い場合があり、早い段階から資本政策と一体で描いておくことが望まれます。


IPOを目指す場合、対応すべき業務は広く多岐にわたります。
なかでも近年、ハードルが高まっているのは監査法人の受嘱と内部管理体制の整備です。

上場申請にあたっては、申請直前二期分について監査法人による監査証明が必要です。
ところが近年、この監査を引き受けてくれる監査法人がなかなか見つからない、いわゆる「監査難民」が問題となっています。

背景には、監査法人側の人手不足や働き方改革による稼働の制約に加え、リスクや手間の大きい上場準備会社の監査が敬遠されやすいという事情があります。かつては大手監査法人が中心的な担い手でしたが、現在は準大手・中小の監査法人が存在感を高めており、幅広く候補を検討することが通例となっています。監査報酬も上昇傾向にあるため、過去の水準ではなく現在の相場を前提に交渉することが大切です。

最近ではIPOを中心として受嘱する中小・中堅監査法人も出て来ていますが、監査法人探しは上場直前の手続きではなく、いわゆるNマイナス2期よりも前の早い段階から動き出すべき重要事項です。

監査難民を避けるうえでも、内部管理体制の早期整備は欠かせません。
承認・チェック体制の構築、月次決算の早期化、内部統制(いわゆるJ-SOX)への対応などは、いずれも一朝一夕には整いません。

これらの準備を直前に慌てて着手すると、監査上の検討事項が積み上がり、かえってスケジュールを圧迫します。これらは早期に完成形を目指すと業務負荷やコスト負担が増大し足かせとなる可能性ありますが、早い段階から会計制度と管理体制の課題を認識し、見通しをもっておくことは重要です。


最後に、ヒトと組織、そしてそれを取り巻く文化の問題に触れます。制度や資金の課題は、突き詰めれば人の課題と結びついています。

スタートアップは少数精鋭で始めることが多く、人材が十分でないケースが少なくありません。一方で、IPOを目指す場合に対応すべき業務は広範に及びます。とりわけ上場準備の知見を備えた経理・管理人材は限られており、地方都市では都市圏に比べてその確保がいっそう難しくなります。必要とする人材の規模に対して、経験ある人材の層が薄いことが一因と考えられます。

限られた資金のなかで優秀な人材を惹きつける手段として、ストックオプション(あらかじめ定めた価格で自社株式を取得できる権利)の活用はもはや一般的といえます。とりわけ税制適格ストックオプションは、権利行使時には課税されず、株式の売却時にまとめて譲渡所得として課税される(税率は原則20.315%)ため、受け取る側の税負担が軽くなる点が特徴です。

しかしこの分野は近年制度改正が相次いでいます。令和6年度の改正では、年間の権利行使価額の上限が、会社の設立年数などに応じて最大3,600万円まで引き上げられました。また、従来は原則として証券会社等への株式の保管委託が必要でしたが、発行会社自身による管理も認められ、未上場の段階やM&Aの際にも権利を行使しやすくなりました。もっとも、税制適格となるための要件は複数あり、そのうち一つでも欠けると、権利行使時に給与所得として重い課税(最大で約55%)が生じるおそれがあります。設計にあたっては、資本政策全体のなかで慎重に検討する必要があります。

日本のビジネス文化は伝統的な企業に根ざす傾向が強く、新しいビジネスモデルやリスクを取ることへの慎重さが残っています。資金調達の難しさの背景にも、こうした文化があるのかもしれません。また、失敗に対する社会的な許容度が高いとは言い難く、スタートアップの失敗が個人のキャリアに与える影響も小さくありません。初めから失敗を前提に始める経営者はいないと思いますが、相応の覚悟が求められるのも事実です。


スタートアップの世界では、栄光と挫折が常に隣り合わせにあります。
こうしたテーマでは夢や希望が語られがちですが、資金・出口・上場準備といった現実的な側面や、市況・利害関係者の思惑を理解しておくことが、結果を大きく左右します。

ポジティブな面だけでなくネガティブな面も知ったうえで備えることで、乗り越えられる課題は着実に増えていきます。本コラムが、真の成功に向けて歩みを進める一助となれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


弊事務所では、新規株式公開(IPO)やM&Aに関する支援業務を幅広く提供しております。
初回ご相談時に報酬は頂いておりませんので、お気軽にお問い合わせください。

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