ストックオプション制度の落とし穴 見落としがちな法定調書提出と実務対応
2026年2月16日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに
ストックオプション制度は従業員や役員のモチベーション向上、企業価値の増加といった目的のために、幅広く利用されています。行使価格や付与対象、期間、税制適格に該当するか否か等、その設定に目が向きがちですが、実務上は税務署に対する調書提出も求められていることを忘れてはいけません。
本稿では、税制適格ストックオプションと非適格ストックオプションの違いを踏まえた上で、企業に求められる法定調書の範囲とその時期について解説します。
2.ストックオプションとは何か
(1)ストックオプションの定義と目的
ストックオプションとは、企業が自社または子会社の従業員・役員などに対して、あらかじめ定められた価格(行使価格)で、自社株式を一定期間内に購入できる新株予約権を付与する制度です。新株予約権とは、会社法上定められた制度で、一定の条件を満たせば株式を取得できる権利を指します。
報酬制度として導入されるストックオプションは、株価が上昇した場合にキャピタルゲインを得られる構造となっており、企業と従業員の利益を一致させ、成長へのインセンティブを高める目的で利用されます。特にキャッシュ報酬が制限されるスタートアップにとっては、有効な人材確保・維持の手段となります。
(2)税制適格・非適格の違い
① 税制適格ストックオプションの概要と要件
税制適格ストックオプションとは、税制上の優遇措置が認められる新株予約権の一形態で、所定の要件を満たすことで、株式取得時(行使時)に所得税が課されず、株式を譲渡した時点で初めて課税されるものをいいます。また、譲渡時の課税は分離課税となり、給与所得に比べて税負担が軽減される可能性が高い点も特徴です。
税制適格と認められるためには、以下のような要件をすべて満たす必要があります。
- 発行価格:新株予約権は無償で発行されること。
- 行使価格:付与時点の時価以上であること。
- 付与対象者:発行企業またはその子会社の役員・従業員、もしくは一定の社外人材に限ること。
- 権利行使期間:付与日から2年以上経過した日から10年以内(設立5年未満の企業では15年以内も可)。
- 権利行使限度額:1人あたり年間1,200万円まで(※)。
- 譲渡禁止:新株予約権の譲渡が禁止されていること。
- 保管委託または管理措置:原則として金融商品取引業者等に保管委託。ただし譲渡制限がある株式であれば、発行会社による管理も可。
※権利行使価格の限度額
設立5年未満の企業: 2,400万円/年
設立5年超20年未満の企業(又は上場後5年未満): 3,600万円/年
設立20年以上(又は上場後5年超): 1,200万円/年
② 非適格ストックオプションの課税タイミング
税制適格要件を満たさない、または制度を適用しないストックオプションは、税制非適格ストックオプションとして取り扱われます。税制非適格の場合、権利付与時に課税されない点は税制適格と変わりませんが、行使時に株式の時価と行使価格との差額が給与所得等として課税対象となるのが特徴です。
さらに、取得した株式を譲渡した際には、その譲渡益に対して譲渡所得として課税されます。
この譲渡所得については、発行企業が買い取りを行う等の場合を除き、発行企業側に法定調書提出義務はありません。譲渡所得の申告は、個人が確定申告によって行うことになります。
3.法定調書の提出義務とその根拠
ストックオプションを発行した企業には、税制適格・非適格の区分に応じて、一定の法定調書の提出義務が生じます。ここでは、それぞれのケースにおける提出書類とその根拠を整理します。
(1)税制適格ストックオプションの場合
税制適格ストックオプションを付与した場合には、次の法定調書の提出が求められます。
① 特定新株予約権の付与に関する調書
税制適格ストックオプションの付与時には、「特定新株予約権の付与に関する調書」を、付与日の属する年の翌年1月31日までに税務署へ提出します。調書には、付与対象者の氏名や職位、行使価額、行使期間、保管委託の有無などの記載が必要とされます。
② 新株予約権の行使に関する調書
権利行使が行われた場合には、「新株予約権の行使に関する調書」を行使日の属する年の翌年1月31日までに提出します。行使日や行使価格、対象者の情報の情報を記載する必要があります。税制適格の場合、行使時点において課税はありませんが、調書の提出は省略できません。
③ 特定株式等の異動状況に関する調書
税制適格要件の中で、付与されたストックオプションにより取得した株式については、金融商品取引業者等に保管委託することを求めています。この点、改正により譲渡制限付き株式の場合には、発行会社が自ら管理を行うことも認められるようになりました。
この制度を利用し、発行会社が自ら管理を行う場合には、「特定株式等の異動状況に関する調書」の提出が必要となります。この法定調書は譲渡制限の付いた株式自体を対象としていますので、新株予約権の状態であるストックオプションを付与した時点での提出するものではなく、ストックオプションが行使され、株式を発行した段階で提出が必要となります。
なお、権利行使に関わらず、株式の異動があった年は毎年提出が必要な点には注意が必要です。
(2)非適格ストックオプションの場合
税制非適格ストックオプションについては、付与時点では法定調書の提出義務はありません。
ただし、「新株予約権の行使に関する調書」については税制適格、非適格に関係なく必要とされる点と、税制非適格の場合、行使時点で株式の時価と行使価格の差額が給与所得等として課税対象となることから、以下のような調書が必要とされます。
① 新株予約権の行使に関する調書
税制適格・非適格を問わず、権利行使があった場合には「新株予約権の行使に関する調書」を提出する必要があります。対象者の氏名、行使日、行使価格などを記載し、翌年1月31日までに税務署へ提出します。
② 源泉徴収票等(給与所得としての提出義務)
非適格ストックオプションの行使により生じた利益(時価と行使価格との差額)は、給与所得等として課税されるため、企業は源泉徴収を行い、その内容を記載した源泉徴収票などの法定調書を作成し、翌年1月31日までに提出する必要があります。
4.実務上の提出書類と期限
① 提出期限
税制適格ストックオプションに関連する調書(特定新株予約権の付与に関する調書、および特定株式等の異動状況に関する調書、源泉徴収票等の提出期限は、いずれも付与日や異動日の属する年の翌年1月31日です。
② 提出漏れ・誤記のリスク
税制適格要件には法令違反がないことを求めていますが、調書の提出義務は税制適格要件と直接関係は無いとされており、それだけをもって直ちに適格性が否定されるものではありません。
とはいえ、税制適格要件に影響しなければ問題ないというものでもありませんので、制度に関連して要求されている手続は適切に実行しておく必要があります。
5.終わりに
ストックオプション制度は、企業と従業員・役員が将来の成果を共有し、長期的な成長を実現するうえで、非常に有効な報酬制度です。
制度設計に目が行きがちですが、適格・非適格を問わず、法定調書の提出や文書管理などの事務的な手続きも制度運用において不可欠であり、その内容を正しく理解し、適切に対応することが求められます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。この記事がストックオプションの発行や運用を行っている企業様、ご担当者の皆様のお役に立てられますと幸いです。
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