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2025年09月26日
IPO-COLUMN-

上場準備における新たな資金調達の潮流 新株予約権付融資(及び社債)の活用時の検討事項・注意事項(ベンチャーデッドの活用方法)

2025年9月26日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

多くのスタートアップ企業にとって、資金調達は事業の持続・拡大に不可欠な要素であり、まさに生命線とも言える存在です。特に、赤字が続く初期成長フェーズや営業キャッシュフローが不安定な段階においては、外部からの柔軟な資金供給が必要不可欠です。

こうした状況の中、近年では新株予約権付融資というエクイティ性を併せ持つ資金調達手法が、スタートアップを中心に徐々に普及してきています。これらは株式の希薄化リスクを将来に先送りしつつ、担保や保証を求められにくい柔軟な設計が可能であることから、発行体・投資家双方にメリットのある資金調達手段といえます。

本稿では、上場準備段階の企業がこうした新株予約権付のファイナンスを検討する意義、基本的な構造、利点および留意点について、実務上の観点から解説します。なお、以降の解説は特に説明の無い限り、比較的件数の多いであろう新株予約権付融資を想定して記載します。


2.新株予約権(オプション)付の融資(借入金)と社債

スタートアップ企業が利用する新株予約権を活用した資金調達の代表例として、以下の2つの形態を解説します。以下の内、特にスタートアップ企業において利用が多い(最近利用が増加している)のは新株予約権付融資です。

  • 新株予約権付融資:借入契約に新株予約権(ワラント)を付けて資金を借り入れる形式で、貸し手は一定期間内に定められた価格で株式を取得できる権利を有します。
  • 新株予約権付社債:社債に新株予約権が付された形式で、投資家は債券保有期間中に、定められた条件で株式取得が可能となります(※)。

※なお、本稿では解説の便宜上「新株予約権付社債」という用語を使用しますが、新株予約権の付与された社債という広義の意味で使用しております。この意義には、分離型ワラント債、非分離型ワラント債、転換社債(Convertible Bond:CB)などを含んでおります。
これらの詳細な解説については、以下のコラムをご覧ください。

新株引受権、新株予約権、分離型、非分離型、多面的な視点からワラント債を解説

これらはいずれも、発行企業が将来的な株式希薄化というリスクを負う代わりに、資金調達を実現できる手段の一つとして活用されています。
なお、新株予約権付社債は比較的業歴が短いスタートアップ企業で発行できるケースは限られています。


3.新株予約権付資金調達方法の基本的なスキーム

新株予約権付資金調達の基本的なスキームは、以下のような手順で実行されます。

  1. 発行体(企業)は、金融機関や投資家と契約を締結し、融資または社債を発行して資金を受け取る。同時に、金融機関や投資家は、元本返済および利息を受け取る基本的な権利に加え、あらかじめ定めた価格で株式を取得できる新株予約権(ワラント)を取得する。
  2. 株価が行使価格を上回った場合、投資家は予約権を行使して株式を取得し、売却益を得る。
  3. 株価が行使価格を下回った場合、予約権は行使されず、投資家は通常通り元本と利息を受け取って満期償還を迎える。

このように、発行体は初期段階での資金調達を実現できる一方、株価が一定水準を超えた場合には株式の希薄化が発生するというリスクを負います。


4.新株予約権付融資・社債のメリット

(1)発行者側(スタートアップ企業側)のメリット

  • 早期資金調達が可能
    上場準備期間中の資金需要が強い段階において、将来の成長性を担保に資金獲得が可能となります。
  • 担保や保証の条件緩和の可能性
    新株予約権の価値が担保に代替されるため、必要とされる担保や保証の条件が緩和される可能性があります。場合によっては、無担保や無保証での契約が可能な場合もあります。
  • 希薄化のタイミングが将来
    新株予約権の行使は将来に限定されるため、資金調達時点での直近の株価への影響や参画株主の数を抑制できます。
  • 資本性の強化
    全てのケースではありませんが、場合によっては、調達した資金を資本性資金と評価できるケースがあります。そのような場合、財務内容の健全性向上につながります。

(2)金融機関、投資家(VC等)側のメリット

  • 株価上昇によるアップサイドの享受
    新株予約権の行使により、キャピタルゲインを得られる可能性があります。
  • 株価下落時の損失抑制
    新株予約権を行使しないことで、元本返済により融資や社債の回収を行うことが出来ます。

これらはスタートアップ企業の強みであるエクイティの将来価値を、デッド(借入金や社債等)側に一部提供することで実行する資金調達方法であるといえます。


.資金調達時の留意点

上場準備中の企業が新株予約権付ファイナンスを採用する場合、以下の点に十分注意が必要です。

  • 開示対象の情報
    上場審査において、未行使の新株予約権数、行使条件、希薄化割合などの情報を開示することが求められ、正確な情報管理が必要となります。
  • 希薄化リスクの管理
    新株予約権を付与することになるため、権利行使されることにより希薄化効果があり、既存株主の反発を受ける可能性があります。
  • 資金使途の明確化
    上場審査においては調達資金の合理的な使途説明が必要であるため、資金調達にあたって戦略的な資本政策を用意しておくことが必要です。
  • 第三者割当の適正性の確保
    新株予約権付融資や新株予約権付社債の引受先との関係性の透明性を担保する必要があります。また、これらは金額が大きくなりがちなため、取締役会や株主総会の承認が必要なケースは多いです。機関設計に基づく適切な承認が得られるよう注意が必要です。

.終わりに

新株予約権付のファイナンス(いわゆるベンチャーデッド)は、株式の希薄化リスクと引き換えに柔軟かつ迅速な資金調達を実現できる手段として、スタートアップ企業にとって有力な選択肢の一つと言えます。特に、将来価値を売りにするスタートアップ企業にとって、これらを担保とする資金調達の手段は多い方が良いのは間違いないでしょう。

もっとも、新株予約権は株主となる可能性のある取引であり、審査上も重点項目の一つですので、制度面・開示面での慎重な設計と運用が不可欠です。本稿が、これから上場を目指す企業の資金調達戦略の構築に役立てば幸いです。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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