譲渡制限付き株式(RS)の会計処理と法人税上の損金算入時期、所得税上の課税タイミングと源泉徴収を解説
2026年1月14日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
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1.はじめに
役員や従業員のインセンティブとして、譲渡制限付き株式(Restricted Stock(RS))を活用するケースがあります。このRSは有効な報酬制度である一方、会計処理や課税のタイミングを正確に把握できていないケースも散見され、実務上の運用が適当でないケースがあります。
本コラムでは、譲渡制限付き株式(RS)について会計と課税の視点から、「いつ」「誰が」に「何を」する必要があるのかをできるだけ平易に整理します。
2.譲渡制限付き株式(RS)とは
譲渡制限付き株式(RS)は、役員や従業員に対して付与される株式報酬で、一定期間の譲渡制限や業績条件が付されている株式をいいます。譲渡制限期間中は原則として売却できず、一定期間の勤務継続や業績目標の達成など、定められた条件を満たしたときに譲渡制限が解除されます。
ストックオプションと比較されることの多い報酬制度ですが、ストックオプションとの大きな違いは、当初から株式そのものが付与されることと、課税のタイミングが権利行使時ではなく「譲渡制限解除時」となることです。譲渡制限解除後は、通常の株式と同様に売却が可能となり、その売却益は株式の譲渡所得として取り扱われます。
なお、本稿は「特定譲渡制限付株式であることを前提として解説を行っております。
「特定譲渡制限付株式」を非常に大雑把に説明すると、「一定期間売れない」、「条件未達なら没収され得る」、「役務提供の対価である」という株式を指します。
特定譲渡制限付き株式の解説は以下のコラムで行っておりますので、こちらをご参照下さい。
譲渡制限付株式に税制適格がある?特定譲渡制限付株式と条件を満たさない場合の取扱い
RS(リストリクテッドストック)の法人税、所得税の取扱いの相違点
3.課税タイミングと所得区分
(1) 譲渡制限付き株式付与時の課税関係
一般的な設計の譲渡制限付き株式(RS)では、株式が付与された時点では所得税の課税は行われません(事前交付型を前提とする)。譲渡制限付きであることはもちろん、一定の条件を満たさない場合には会社が無償で取得できる条件が付されていることが多く、付与時点では経済的利益が確定していないと解されているものと思われます。
したがって、通常の譲渡制限付き株式(RS)制度では、付与時に受給者の給与所得が発生することは想定されておらず、課税の中心は後述する譲渡制限解除時と売却時に生じることになります。
(2)譲渡制限解除時の課税関係
譲渡制限付き株式(RS)では、通常、譲渡制限が解除された時点で経済的利益が確定します。
そのため、税務上は「譲渡制限解除時の1株あたり株価×解除された株数」という計算により算出される金額が、その年分の所得と考えるのが妥当でしょう。
この時、RS取得時に自己負担額(払込額)がある場合、この払込額が所得から控除できるかという点については検討の余地がありますが、給与所得には取得費という概念が無いことから、スキーム・契約内容によるものの、個人的には控除はしないのが無難と思われます。
会社との関係が雇用関係である場合、この所得は原則として給与所得として扱われます(退職所得に該当するケースも有)。したがって、他の給与と同様に、給与所得として総合課税の対象となり、給与所得控除などを通じて最終的な税額が決定されます。
(3)株式譲渡時(売却時)の課税関係
譲渡制限解除後に株式を売却した場合には、売却時点で改めて株式の譲渡所得が生じます。譲渡所得の金額は、一般的な株式と同様に
「売却価額−取得費−譲渡費用」の算定式で計算されます。譲渡制限付き株式(RS)の場合の取得費は、通常、譲渡制限解除時点の時価、すなわち既に課税がなされた給与所得と考えられます。
RS取得時に自己負担額(払込額)については、譲渡所得であるこの段階で控除するのが妥当と思われます。
このように、
- 譲渡制限解除時には給与所得として一度課税される
- その後の値上がり部分(利益部分)については株式の譲渡所得として課税される
という二段階の課税関係になる点が特徴と言えます。
この対応関係を時系列にまとめると以下のようになります。分かりやすいよう、時価が上がり続けているという前提の図表としています。
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4.源泉徴収のタイミング
譲渡制限付き株式(RS)により生じる所得が給与所得として扱われる以上、会社には源泉徴収義務が生じると考えるのが自然です。そのため、譲渡制限解除時においては発行体企業側で源泉徴収が必要と考えられます。
具体的には、譲渡制限解除時の1株あたり株価に解除された株数を掛けた金額を給与等の支給額とみなし、その金額に基づき源泉所得税を計算するのが合理的と思われます。源泉所得税の納付期限は、通常の給与と同様に「譲渡制限が解除された月の翌月10日」と合わせて納付することになるでしょう。
一方、譲渡制限解除後に株式を売却した場合に生じる所得は株式の譲渡所得となり、発行体企業側に源泉徴収義務はありません。一般的には、報酬としての側面があることから無償発行が多いと思いますが、もしも譲渡制限付株式発行時に自己負担(払込額)がある場合には、譲渡所得において取得費に含め控除を受けるのが妥当と思われます。
譲渡制限解除時には、給与や役員報酬の支給がない場合には現金の給付が無い一方で、株価次第では所得金額が多額に上り、源泉徴収すべき税額が高額になる可能性があります。
このような場合、従業員の資金繰りを考慮した以下のような対応方法が考えられます。
- 解除月に追加で現金給与を支給し、その中から源泉所得税を天引きする方法
⇒この方法を用いると、受給者が自前で現金を用意する必要を軽減できますが、追加で支給する給与自体が源泉徴収の対象となるため、源泉税額の計算がやや複雑になる可能性があります(グロスアップ計算の必要性)。
また単純に企業側の負担が増加します。 - 会社が源泉所得税を一時的に立替え、後日受給者と精算する方法
⇒立替金や従業員貸付金として処理し、後日、株式売却代金や賞与、通常の給与などから返済する形を取る方法も考えられます。
他にも、一定期間に渡って源泉徴収税を引き続ける方法や、人件費とは別に源泉徴収額を徴収する方法など、いくつか対応方法は考えられますが、いずれにせよ従業員側にも生活資金等一定のキャッシュが必要と思いますので、配慮が必要なケースがあるということを認識しておくことが重要です。
5.法人税法上の損金算入時期と会計上の取扱い
法人税法上、譲渡制限付き株式(RS)は一定の要件を満たすことで損金算入が可能となります。
そして損金算入できるのは給与等課税事由が生じた日とされ、受給者側で給与所得が発生したタイミング、すなわち「譲渡制限が解除された事業年度」となります。
損金算入額については、「金銭報酬債権等の額」とされていますが、少なくとも筆者はその具体的な金額の算定方法は見つけることが出来ませんでした。ただ、「特定譲渡制限付株式の交付と引換えに現物出資された金銭報酬債権等の額」という点を踏まえると、現物出資が行われたと考えられるのはあくまで付与時点ですので、個人的には、付与時点の時価×譲渡制限が解除された株式数と捉えるのが自然と思います。この場合、所得税上は譲渡制限解除時の時価、法人税上の損金算入額は付与時の時価という齟齬が起きます。
これらの点を踏まえ、実務上、考えられる処理方法は大きく以下の二つになると思います。
①法人税上の損金算入額を「譲渡制限解除時の時価」で計算する(原則、所得税と一致)
…通常、過去において会計上「株式報酬費用等」で計上し否認されていた額の認容額と損金算入額が一致しないため、その差額は社外流出などで申告調整を行う。
②法人税上の損金算入額を「付与時点の時価」で計算する(原則、会計処理と一致)
…申告調整において過去加算額を譲渡制限解除時に損金算入(認容)する。会計上の株式報酬費用等の処理金額総額と法人税申告上の損金算入額は基本的に一致する。
結果、所得税上の給与所得金額と損金計上額との間に齟齬が起きる可能性。
特に個人的見解を含みますが、実務上は②で処理するケースが多いように思います。
処理が容易である点(会計処理との整合性)がその背景にあるものと推察しますが、金銭報酬債権は現物出資時点で発生していることを踏まえ、付与時点の時価を用いることには合理性もあると思われます。
ただし、特にこの辺りは専門家により見解が異なる可能性もありますので、公認会計士、税理士などの専門家と会計処理、税務上の取扱いを整理することをお勧めします。
6.会計上の取扱い
会計基準上、譲渡制限付き株式(RS)は株式に基づく報酬として取り扱われます。
一般的には、付与時に測定した公正価値を、付与日から譲渡制限解除日までの期間にわたり、受給者が提供する役務に対応させながら費用計上します。対応方法は基本的には期間按分になると思います。これにより、付与から譲渡制限解除までの間、毎期の損益計算書に株式報酬費用が計上されることになります。
しかし、前述のとおり税務上は、譲渡制限が解除されるまで株式報酬費用の損金算入が認められないことから、通常は会計上先行して計上した株式報酬費用が税務上一時的に否認されることとなります。
譲渡制限付き株式が最終的に税務上損金算入可能なスキームとなっている場合、この差額は将来減算一時差異として税効果会計の対象となり、将来の損金算入を見込んで繰延税金資産を計上するかどうかを検討する必要があります。ただし、繰延税金資産が計上できるかどうかは、会社の区分や将来の課税所得の見込みなどを踏まえた回収可能性の判断によります(通常の一時差異と同様)。
このように、譲渡制限付き株式(RS)は税務だけでなく、会計上も損益計算書と貸借対照表に影響を与えるため、導入にあたっては会計・税務の両面から制度設計を行うことが重要です。
会計処理から発行体企業、付与対象者(従業員等)の課税関係をまとめると以下のようになります。
の会計処理と課税関係整理(事前付与型を想定)-300x198.png)
7.終わりに
譲渡制限付き株式(RS)は、日本では比較的新しい株式報酬制度であり、優秀な人材の確保や中長期的な業績向上といった面で大きなメリットがあります。一方で、課税タイミングや源泉徴収、法人税法上の損金算入時期、会計上の費用認識と税効果会計など、多くのルールが関係し多面的な理解が求められる制度でもあります。
こうしたルールを十分に理解しないまま制度を導入すると、会社・受給者双方に予期せぬ税負担や会計上の影響が生じるおそれがあります。
本コラムが、譲渡制限付き株式(RS)の導入や運用を検討する際の基本的な整理としてお役に立てば幸いです。具体的な制度の設計や個別案件への適用にあたっては、会社ごとの状況を踏まえ、専門家への相談もご検討ください。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
弊事務所では、リストリクテッドストック(RS)やストックオプション(SO)を始めとした株式報酬制度の設計支援、新規株式公開(IPO)やM&Aに関する支援業務を幅広く提供しております。
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