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2026年03月30日
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譲渡制限付株式の税制適格? 特定譲渡制限付株式と条件を満たさない場合の取扱い RS(リストリクテッドストック)の法人税、所得税の取扱いの相違点

2026年3月30日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

株式報酬の一つとして譲渡制限付株式、いわゆるRS(リストリクテッドストック)という制度があります。このようなタイプの報酬制度はインセンティブ報酬とも呼ばれ、役員や従業員に自社株を付与し、中長期的な企業価値向上と従業員等のメリットを結び付ける手段として有効です。

インセンティブ報酬として有名なストックオプションには税制適格要件がありますが、実は譲渡制限付株式にも、特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合と満たさない場合とで、所得税・法人税の課税タイミングが変わる可能性があり、複雑な課税関係があります。しかし、細かな違いを十分に理解しないまま導入をしてしまうケースが散見されます。

理解不足のまま導入を進めると、想定よりも早い時点で役員や従業員に所得税が課されてしまったり、発行体側で損金算入できかったりする可能性があるなど、想定と異なる結果に繋がってしまうかもしれません。

本コラムでは、譲渡制限付株式の中でも税務上位置付けが整理されている特定譲渡制限付株式を中心に、要件を満たす場合と満たさない場合で、役員・従業員側の所得税と発行体側の法人税がどのように異なるのかを整理します。


2.譲渡制限付株式とは

(1) 広義の譲渡制限付株式

単に「譲渡制限」の付いた株式という意味では、比較的広範な企業の株式が該当します。
企業が株式に譲渡制限を設ける方法はいくつかありますが、大きく分けて次の二種類に分類出来ます。

  • 定款により株式の譲渡について会社の承認を要する旨の制限を設けている場合
  • 個別の株主間契約により、一定期間株式を譲渡できないなどの条件を付している場合

前者の「定款」による譲渡制限がある株式会社は、一般に「非公開会社」と呼ばれ、多くの非上場企業がこの譲渡制限を設けています。
むしろ、上場企業でない限り譲渡制限を設ける方が圧倒的多数であり、譲渡制限を設けない公開会社となることは稀です。

一方、株式報酬としての「譲渡制限付株式(RS)」という場合、通常は後者の「契約による譲渡制限」を指します。具体的には、役員や従業員に株式を付与しつつ、一定期間は自由に譲渡できない、一定の在籍要件や業績要件を満たさないと会社に無償で取得される、といった条件を付す形が一般的です。

本コラムで扱う「譲渡制限付株式」も、この株式報酬としての契約ベースの譲渡制限付株式を前提としています。

(2)特定譲渡制限付株式

税務上の用語としての「特定譲渡制限付株式」は、一定の要件を満たす契約上譲渡制限のかかった株式を指し、非常に大雑把に説明をすると、「①一定期間売れない」「②条件未達なら没収され得る」「③役務提供の対価である」という条件を課された株式を指します。

  • 一定期間の譲渡制限が付されていること(一定期間売れない)
  • 在籍や業績などの条件を満たさない場合、発行体企業等が当該株式を無償で取得できることが定められていること(条件未達なら没収され得る)
  • 役員や従業員に対する役務提供の対価として交付されていること(役務提供の対価)

なお、この「特定譲渡制限付株式」を支給するためには、職務執行開始の日から一ヶ月以内に株主総会等によって支給額が決議される必要があります。また、さらにこの決議日から一ヶ月以内に対象株式の交付が行われる必要がある点にも注意が必要です。

これらの要件を満たすことで、個人側では譲渡制限が解除されたタイミングで給与所得等として課税され、法人側でも同じタイミングで損金算入ができるという、整理がなされています。

なお、同じくインセンティブ報酬としての性格を持つストックオプションでは、租税特別措置法に基づく要件を満たすものを一般に「税制適格ストックオプション」と呼びます。一方で、特定譲渡制限付株式についても一定の要件はありますが、一般的に「税制適格譲渡制限付株式」とは呼びません。これは租税特別措置法を背景とする制度ではないためでしょう。


3.付与対象者(役員・従業員等)の課税関係

ここでは、RSを受け取る役員や従業員などの所得税について、特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合と満たさない場合の違いを、タイミングごとに整理します。
なお、明文化されていない部分もあることから、個人的な見解も含む箇所がある点にご容赦下さい。

(1) 特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合

① RS付与時

特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合、税務上は原則として付与時点では給与所得は生じないとされています。名義上は株式が交付されていても、課税のタイミングは後述する譲渡制限解除時まで繰り延べられます。

② 譲渡制限解除時

譲渡制限が解除された時点で、その日の株価に基づき給与所得等として課税されます。
経済的利益の額は、譲渡制限解除日における株価に、譲渡制限の解除された株数を乗じた金額となります。
主に役員に見られる設計ですが、退職時に譲渡制限が解除される条件となっている場合など、退職所得として扱われることもあります。

③ 株式譲渡時

その後、株式を売却した場合には、譲渡所得として課税されます。取得費は、譲渡制限解除時に給与所得として課税された価額となり、売却価額との差額が譲渡所得として計算されます。

(2)特定譲渡制限付株式の要件を満たさない場合

要件を満たさず、単なる譲渡制限付株式として扱われる場合には、次のような取扱いとなる可能性が高いものと思われます。ただし、株式報酬の設計は多岐に渡り、且つ、特定ではない譲渡制限付株式は課税関係が事細かにルール化されているわけではないので、個別案件ごとの検討が必要です。

① RS付与時

特定譲渡制限付株式に該当しない場合、原則として付与時点において給与所得として課税される可能性が高いと思われます。この時点で既に対象株式を取得していることには変わりなく、所有権が確定している場合、課税のタイミングは付与時点と考えるのが自然です。
ただし、この権利が制限された株式の経済的価値をいくらにするかという点(評価額)は検討の余地があります。

② 譲渡制限解除時

特定譲渡制限付株式の要件を満たさない場合、譲渡制限解除時点で新たに給与所得が生じる取扱いとはならず、課税上の主な分岐点は付与時と株式譲渡時になる可能性が高いと思われます。

③ 株式譲渡時

付与時に給与所得として課税された価額が取得費となり、その後の値上がり部分が譲渡所得として課税されます。
要件を満たさない設計とした場合、付与時という比較的早いタイミングで給与所得課税が行われる可能性がある点が特徴です。まだ株式を売却していない段階、つまり現金を手にしていないにもかかわらず、給与所得に対応する納税資金を準備しなければならない点が大きな負担になり得ます。

この点、特定譲渡制限付株式として設計した場合も、株式売却より先に税金が発生する点は共通していますが、要件を満たさない場合には、その納税資金の準備がさらに早まる可能性があることが重要です。
譲渡制限期間は比較的長期となることが多く、この課税時点の相違は非常に大きいといえます。


.発行体企業の課税関係

続いて、RSを交付する発行体側の法人税について、特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合と満たさない場合で整理します。
なお、上記「3.付与対象者(役員・従業員等)の課税関係」と同様、明文化されていない部分もあることから、個人的な見解も含む箇所がある点にご容赦下さい。

(1) 特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合

特定譲渡制限付株式に該当する場合、税務上は役員・従業員側で給与所得が生じる譲渡制限解除のタイミングにおいて、法人側でも損金算入が認められる仕組みとなっています。
会計処理と税務上の取扱いがずれることが多く、その場合には申告調整での対応が必要となります。

① RS付与時

通常、特定譲渡制限付株式の要件を満たす場合、付与日において損金算入は行われません。
対して企業会計上は、付与日に公正価値を測定し、譲渡制限期間にわたって株式報酬費用を期間按分が必要となる可能性があります。税務上損金算入が出来ない場合、譲渡制限解除まで一時差異として取り扱うことになります。

② 譲渡制限解除時

譲渡制限解除時に役員・従業員側で給与所得が確定し、その事業年度において法人側でも給与として損金算入することができます。
ただし、前述のように企業会計上は異なる処理を行っている場合、過去、既に費用計上が行われている可能性があります。その場合、譲渡制限解除時に過去加算していた損金不算入額を認容(減算調整)することとなります。

③ 株式譲渡時

株式譲渡は個人株主のレベルで行われる取引であり、通常、発行体の法人税には直接の影響はありません(自己株式取得などの場合を除く)。

なお、役員に対するRSについては、役員給与の損金算入要件もあわせて検討する必要があります。特定譲渡制限付株式として一定の条件を満たす設計とすることで、「届出不要の事前確定届出給与」として扱う枠組みを利用でき、その場合には損金算入のハードルが下がります。

(2)特定譲渡制限付株式の要件を満たさない場合

要件を満たさない場合には、特定譲渡制限付株式に対する特例は適用されず、一般的な給与課税と損金算入のルールに従って判断することになるものと思われます。

① RS付与時

・従業員に対する付与
従業員については、付与時点で給与として課税されている場合には、その給与に対応する金額について法人税上も損金算入が認められる可能性があります。
一方、会計上は、税務上の要件にかかわらず、譲渡制限解除までの期間にわたり株式報酬費用として期間按分される処理が採用されることが多く、その結果、会計上の費用認識のタイミングと税務上の損金算入のタイミングがずれる可能性があります。
この点は特定譲渡制限付き株式(要件を満たす場合)と同じですが、異なるのは損金算入額が先行する可能性があるという点です。

・役員に対する付与
役員については、従業員よりも損金算入の要件が厳しくなります。役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当しない限り、法人税上損金算入が認められません。
譲渡制限付株式は上記の内、前確定届出給与として扱われることが多いと思います。
特定譲渡制限付株式の要件を満たさない場合、届出不要の事前確定届出給与として扱うことも難しくなるため、設計によっては株式報酬として計上した金額の全額が損金不算入となる可能性があります。

② 譲渡制限解除時

特定譲渡制限付株式に該当しない場合、譲渡制限解除時を基準とする特別な損金算入のルールは設けられていません。付与時に損金算入をする場合、原則として、このタイミングでは新たな給与課税も行われず、法人税上の損金算入も生じません。

③ 株式譲渡時

株式がその後に譲渡されたとしても、通常は発行体企業側の法人税には直接の影響はありません。譲渡による所得は株主個人のレベルで生じるものであり、自己株式取得などの例外を除き、発行体の法人税には直接の影響がないのは特定譲渡制限付株式(要件を満たす場合)と同様です。


.終わりに

本コラムでは、株式報酬としての譲渡制限付株式(RS)について、特定譲渡制限付株式の要件を満たすか否かによって、役員・従業員側と発行体企業側の課税、損金算入のタイミングがどのように変わるかを整理しました。特に、付与時課税となるか、譲渡制限解除時課税となるかによって、両者の期間差は大きくなりやすいことから実務上のインパクトは大きいといえます。

インセンティブ報酬という側面から考えると、受給者側のデメリットが大きいことは導入の目的に照らして不適当な可能性もあり、こうした税務面の違いも踏まえた検討が不可欠です。
特に専門的な知識も必要とされることから専門家への相談を交えながら、自社にとって無理のないスキームを選択することが望ましいと考えられます。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。本コラムが、譲渡制限付株式の導入・設計を検討される際の参考となれば幸いです。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


弊事務所では、新規株式公開(IPO)やM&Aに関する支援業務を幅広く提供しております。
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