IPOに向けた従業員のモチベーションの向上・スキルアップについて インセンティブプラン、研修制度や外部専門家の利用
2024年6月28日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
IPO(新規株式公開)は企業にとって大きな転機であり、成功のためには従業員全員の協力が不可欠です。上場準備の中で対処しなければならない事項は多いことから、従業員に掛かる負荷も大きくなります。
IPOを実現するためには、企業一丸となり取り組む必要がありますが、漠然とした指示だけでは現場が処理しきれず、担当者が頻繁に変わり業務が安定しないなんていうことは珍しくありません。
IPOは難易度の高い取り組みであり、人事的にも戦略的なアプローチが求められるのです。
本コラムでは、IPOで行われる人事上の施策について解説したいと思います。
2.意識改革と目標共有
(1)IPOの意義とビジョンの明確化
①IPOの意義を教育する
IPOの意義や企業全体に与える影響を従業員に理解してもらうことは、従業員のマインドセット向上に直結します。特に自分たちが今何を目指しているか、どのようなポジションにいるのかを理解することが重要です。
定期的な教育プログラムを実施し、IPOが企業にもたらす成長機会や個人のキャリアに与える影響について発信しましょう。
また、IPOは全てのスケジュール通りにいくとは限りません。プロジェクトが長期化することも珍しくありませんので、そのような状況になった場合であっても、モチベーションの低下に繋がらないよう、ある程度期間の要する取り組みであることを理解してもらうことも重要です。
②経営陣からの明確なビジョン提示
経営陣がIPOに向けた明確なビジョンと戦略を示すことは、従業員のモチベーションを高める重要な要素です。経営陣が自らの言葉でビジョンを語り、その達成に向けた具体的な計画を共有することで、従業員は自身の役割を理解しやすくなります。
3.報酬制度
(1)成果の認識と報酬の明確化
株式報酬制度を導入することで、従業員が会社の成長とともに利益を享受することが可能であり、これにより、従業員の長期的なモチベーションを引き出し、企業の成長と従業員の動機が整合することとなります。
特にスタートアップ企業では求められる技能に対して十分な報酬が準備できないケースがあり、株式報酬制度を用いることで優秀な人材の確保することが出来ます。
また、株式報酬以外でも成果に応じたインセンティブプランを導入し、従業員の努力を正当に評価する体制は有効です。現実的な問題として、株式報酬制度には発行可能な数に限りがあり、全ての従業員を対象にすることは出来ない可能性が高いといえます。
具体的な目標を達成した際の報酬を明確にすることで、従業員のモチベーションを高めることも必要です。
4.スキル開発
(1)継続的な学習と成長の支援
IPOに向けたスキルを習得するための研修等、トレーニングプログラムを提供することも重要です。
専門知識やリーダーシップスキルを向上させることで、多岐に渡る必要スキルを習得することが出来ます。
IPOに求められる能力は専門性が高く、且つ希少性があるため、従業員が初めから全ての技能を身に着けているケースは多くありません。そのような場合、研修制度や自己学習を通じて、上場までにスキルを習得する必要があります。
5.労働環境整備
スタートアップ企業では様々な方面に資金が必要となります。
もしも従業員の人件費にあてる資金が十分でないと思われるなら、労働環境によってそのビハインドを埋めることも大切です。
スタートアップ企業の労働環境はイチから設計が可能であるため、柔軟性が高いのが特徴です。
この点は大きな強みとして活用することが出来ます。
(1)柔軟な働き方の推進
①リモートワークの導入
リモートワークを導入し、従業員が自分のペースで働ける環境は魅力の一つになるでしょう。柔軟な働き方は従業員のストレスを軽減し、モチベーションを高める効果があります。
反面、取り扱う情報によってはセキュリティ面に配慮が必要なケースもあります。
②フレックスタイム制度の導入
フレックスタイム制度を導入し、従業員が仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境を提供します。上記リモートワークのケースと同様、働きやすい環境は生産性のロイヤリティの向上に繋がります。
6.上場準備チームの組成
(1)上場準備チームとは
IPOに向けたチームを組成します。
上場準備室などと呼ばれるチームであり、上場に関するタスクの振分や実際の実務を担います。
チーム名称は様々であり、この役割を既存部署が担うことも多いですが、様々な方面から課題対処を求められる上場準備プロジェクトでは、ほぼ必須のチームであると言えるでしょう。
(2)横断的なチームの編成
上場準備に関するチームは、特定の部署だけで完結するものではありません。
様々な部署からメンバーを集めてクロスファンクショナルなチームを編成し、IPOプロジェクトに取り組む必要があります。
(3)外部専門家の利用
①専門家による研修、勉強会の実施
外部の専門家を招いて研修や勉強会を実施し、最新の知識やスキルを習得します。
専門性の高い知識が求められるIPOでは、従業員の成長が重要ですが、社内にそのような専門知識を持つ者が揃っているとは限りません。
外部の専門家の知識を得ることで、従業員の成長の機会を得ることが出来ます。
②コンサルタントの活用
内部人材が不足している場合には、外部コンサルタントを活用して、課題解決やプロジェクトを推進することも有効な手段です。
直接的な問題解決だけでなく、客観的な視点からのアドバイスは、チームのパフォーマンス向上にも寄与することが出来ます。
7.最後に
IPOで求められる技能は要求水準は高く、経験者でもない限り従業員のモチベーションやスキルアップは避けて通れません。
これらは何か一つの対策をとれば解決するというものではなく、意識改革、研修制度、労働環境の整備、チームビルディングなど、総合的なアプローチが求められます。
従業員の能力を引きだすことは、IPOに大きく貢献をしてくれることに間違いはありません。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。