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2025年09月08日
IPO-COLUMN-

IPOターゲット市場_どの市場を目指す? スタンダード市場編 上場時の審査基準、維持基準

2025年9月8日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに

東京証券取引所が設ける代表的な三つの市場区分の一つに「スタンダード市場」があり、日本の中核を成す証券市場一つです。安定的な事業基盤と一定の成長性を備えた企業が上場するこの市場は、しばしば「中堅企業向け市場」と紹介されることがあります。
この「中堅」という表現は、あくまで東証上場企業全体の中での相対的な位置付けに過ぎず、日本全体の企業数と比較した場合、スタンダード市場に上場している企業は大規模かつ成熟した企業であるといえ、同市場への上場は容易ではありません。

本記事では、そのスタンダード市場の基本的な解説と、「上場時の審査基準」と「上場後の維持基準」の違いに焦点を当て、それぞれの基準が何を求めているのか、そして実務上どのような準備・対応が求められるのかをわかりやすく解説します。


2.スタンダード市場とは

(1)スタンダード市場の定義と役割

2022年4月、東京証券取引所は市場区分を「プライム」「スタンダード」「グロース」の三市場体制へ再編しました。スタンダード市場は、「安定した収益基盤と中長期的な成長可能性を備えた企業が、継続的に企業価値を高めることを前提とした市場」と定義されています。投資者に対して、一定の流動性とガバナンス水準を保証しつつ、持続的な上場の維持が求められる市場です。

(2)スタンダード市場の対象企業像

① 中堅企業、一定成長企業とは

「中堅企業」という表現は、東証上場企業群の中での比較的な位置づけとして用いられることがありますが、日本全体で見ればスタンダード市場に上場する企業の大多数は大企業です。売上高、従業員数、時価総額などいずれにおいても、相対的に非常に高い水準にあります。

② スタンダード市場が担う役割

スタンダード市場は、プライム市場ほどの厳格なガバナンス基準は求められない一方、グロース市場よりも安定性が高く、投資者にとっても一定の信頼感が得られる市場です。上場企業としての基本的な責任を果たしつつ、柔軟な経営判断が可能である点が特徴です。


3.上場時の審査基準

(1)スタンダード市場における形式基準

スタンダード市場に上場するには、以下のような形式的な数値基準を満たす必要があります。
様々な基準がありますが、代表的なものを挙げると以下の通りです。

  • 株主数:400人以上
  • 流通株式数:2,000単位以上
  • 流通株式時価総額:10億円以上
  • 流通株式比率:25%以上
  • 事業継続年数:原則3年以上
  • 純資産:正の値
  • 利益実績:直前期の経常利益1億円以上
  • 監査意見:無限定適正意見

これらの要件は、上場企業としての信頼性と市場への影響度を図るために必要とされています。

(2) スタンダード市場における実質基準

実質基準とは、単なる数値だけでなく、企業の事業継続性・ガバナンス体制・開示の正確性などを総合的に判断する基準です。具体的には、独立性のある取締役の設置、監査体制の有効性、内部統制の整備状況などが審査されます。


4.上場後の維持基準

(1)維持基準の全体像

① 株主数や流通株式基準の継続要件

上場後も引き続き、株主数400人以上、流通株式数2,000単位以上、流通株式比率25%以上、流通株式時価総額10億円以上といった要件を維持する必要があります。これらは毎年の基準日(通常は決算期末)時点で確認されます。
この点、数値上は新規上場時の審査基準と変わるものではありません。

② 情報開示・内部管理体制の継続的評価

開示体制やコーポレートガバナンス・コードの遵守状況、J-SOX対応などの内部統制についても、実効性を重視した継続的な体制運用が求められます。

③ 財政状態に関する基準

スタンダード市場では、一定の財政的健全性を維持することが求められます。具体的には、「純資産の額が正であること」が原則とされており、債務超過に陥った場合には所定の猶予期間内に改善できなければ上場廃止事由に該当する可能性があります。債務超過に該当した場合、速やかな財務改善策や資本増強が求められます。

④ 利益に関する基準

利益水準については、必ずしも上場時の審査基準を満たし続ける必要はなく、基準から具体的な金額は提示されておらず、赤字であったとしても即座に上場維持に支障をきたす訳ではありません。
この点は新規上場時の基準と異なります。


.審査基準と維持基準の比較

(1)上場後の基準維持の重要性

審査はあくまで「上場時点」での適格性を判断するものです。
これに対し、維持基準は「将来にわたる持続的適格性」が問われます。株式流動性や業績の維持など、企業を取り巻く環境の変化に柔軟に対応し続けなければ、基準を満たし続けることは難しくなるでしょう。

(2)上場時形式基準と維持基準の比較

スタンダード市場においては、上場時の審査基準と維持基準に大きな違いはなく、多く基準で共通しています。

項目 上場時の審査基準 上場後の維持基準
 株主数  400人以上(申請見込み)  400人以上(毎年基準日で確認)
 流通株式数  2,000単位以上  2,000単位以上
 流通株式時価総額  10億円以上  10億円以上
 流通株式比率  25%以上  25%以上
 純資産  正の純資産  正の純資産
 利益基準  最近1年間の利益1億円以上  条件無
 監査意見  無限定適正意見  継続開示義務あり
 対応措置  上場審査通過が必要  基準未達で改善期間 →未達成なら上場廃止の可能性あり

(3)市場が求める「成熟」とは

市場が期待するのは、基準を「クリアする」だけではなく、「継続」することも含まれます。
その背景には、投資家との長期的信頼関係、ガバナンスの実効性、企業の成長性といった要素が含まれます。つまり、上場後の経営は、守りと成長の両立が常に問われるフェーズに突入するのです。


.終わりに

スタンダード市場に上場する企業は、一定の成長を長期間続ける企業や知名度、規模を有します。
しばしば中堅と表現されることがありますが、これはあくまで上場企業の中での話であり、日本全体の企業内、ごく一部の大企業にあたります。そのうえで、本市場が求めるのは、上場による信用の獲得だけではなく、信用を裏切らない経営体制の継続です。本稿では、上場時と維持時の基準の違い、実務への影響、そして企業としての対応姿勢の重要性を整理しました。審査を通過することはスタート地点であり、真に問われるのは“維持して成長する力”であります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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