M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)の重要性 デューデリジェンスとは、その意味や効果をわかりやすく解説
2024年4月22日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
近年、M&Aに対する注目が高まっています。
M&Aは、企業の成長戦略において非常に有効な手段の一つですが、同時に大きなリスクを伴います。M&Aにおいて情報は非常に大きな価値を持ち、失敗事例の原因の多くは、買収先企業の財務状況や事業内容、法務状況などの事前調査が不足していたということにあるでしょう。
まさにこの買収先企業の事前調査が、デューデリジェンス(DD)と呼ばれています。
デューデリジェンスは、M&Aの成功確率を高めるために不可欠なプロセスであり、買収先企業の様々な側面を詳細に調査・分析することで、その実行に重要な役割を果たします。
時間や予算の都合上、デューデリジェンスを省略するというケースも見受けられますが、デューデリジェンスは直訳すると、「当然に行うべき注意や努力」と言われています。
デューデリジェンスを行わないこと自体が大きなリスクを許容していることに他ならず、デューデリジェンスは以下のような役割を果たしていることを認識しておきましょう。
1.M&Aの取引条件の検討
デューデリジェンスは、主に買い手が売り手の調査をするために利用されます。
M&Aにおいて、売り手と買い手の間には大きな情報量の差があり、売り手に対して、買い手の持つ情報量は限定的です。非上場会社のように、多くの情報を公開する義務のない企業であればなおさらです。
そのため、買い手は買収先企業の潜在的なリスクや問題点を洗い出すことで、買収価格や買収条件の交渉を進めるための情報収集を行います。反対に、デューデリジェンスを行わないことは、M&Aの交渉材料を獲得できないことを意味します。
2.M&Aのリスクを低減
M&Aには、常に大きなリスクが伴います。
中には不都合な情報を隠してM&Aを進めたいと思う売り手も存在するでしょうし、売り手自身で認識していなかった未払残業代などの簿外債務が存在することもあります。M&Aをしたは良いものの、期待していた効果を得られないというケースも珍しくありません。
リスクのないのM&Aはありません。
デューデリジェンスによってリスクをゼロにすることは出来ませんが、リスクを低減することが可能です。
表面的な数値や仲介者の勧めでM&Aを進めたくなる気持ちも分かりますが、ことM&Aにおいては性善説に基づき取引を進めることは、注意不足であると言わざるを得ないでしょう。
買い手と売り手は根本的に利益相反関係にあることを意識してください。
3.買収後のスムーズな経営統合(PMI)
M&Aの取引条件などの検討も重要ですが、M&A後の経営統合はさらに重要です。
あくまでM&Aは入り口であり、M&Aにより期待した成果を得られるかどうかは、買収をして以降にかかっていますので、経営統合(PMI)はM&Aにおける大きな課題の一つであるといえます。
デューデリジェンスは、買収先企業の経営陣や従業員とのコミュニケーションを円滑化し、買収後のスムーズな経営統合(PMI)を促進するのに役立ちます。
4.デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスは、調査対象とする分野によって様々な種類に分類されます。
稀に、財務デューデリジェンスのことをデューデリジェンスであると思われているケースにあたることがありますが、本来はその専門分野によって区分されます。
主なデューデリジェンスの種類は以下のとおりです。
(1)財務デューデリジェンス
買収先企業の財務状況を分析し、資産価値、負債価値などを中心に調査・報告します。
実務上行われることが最も多いデューデリジェンスであり、買収価値の算定にも重要な情報を提供します。
(2)税務デューデリジェンス
買収先企業の税務状況を分析し、未払税金や追徴課税のリスクを調査・報告します。
(3)法務デューデリジェンス
買収先企業の法務状況を分析し、訴訟リスク、契約上のリスク、知的財産権の状況などを中心に調査・報告します。
(4)事業デューデリジェンス
買収先企業の事業内容、市場環境、競争力などを分析し、買収後のシナジー効果や事業運営上のリスクを調査・報告します。
(5)人事労務デューデリジェンス
買収先企業の従業員構成、人事制度、労務問題などを分析し、買収後の経営統合における人的課題を評価します。実務上多く発生する課題に未払残業代がありますが、法務デューデリジェンスで調査することもあります。
(6)環境デューデリジェンス
買収先企業の環境問題への取り組み状況を分析し、環境規制や環境汚染によるリスクを評価します。
上記に挙げたデューデリジェンスの種類は代表的なものであり、多くの場合はこれらを組み合わせて実施します。
ただし、上記の分類に捉われる必要はありません。企業がM&Aを進めるにあたって必要と感じる分野について調査を行い、M&Aの実行について情報を得ることが重要なのです。
場合によっては、必要な情報を得ることが出来ず、リスクを許容できないためM&Aを実行しないということもあるでしょう。
5.デューデリジェンスの進め方
デューデリジェンスは、専門家チームを編成して、計画的に進めることが重要です。
企業の調査、リスクの判定には専門能力が必要とされ、十分な調査には社内リソースだけでは不足することが多いのではないでしょうか。
専門家チームには、公認会計士、弁護士、税理士、コンサルタントなど、それぞれの専門分野の知識を持つ人材を参加させることが必要です。
デューデリジェンスの具体的な進め方は、以下のとおりです。
①デューデリジェンス計画の策定(範囲の決定)
②事前資料入手、事前質問等の事前情報収集
③現地調査・ヒアリング
④分析・評価
⑤報告書の提出
6.デューデリジェンスを実施する上での注意事項
デューデリジェンスを実施する際には、以下の点に注意する必要があります。
(1)調査範囲の明確化
調査対象となる分野を明確にすることで、効率的なデューデリジェンスを実施することができます。
また、逆に調査対象範囲を明確にしておかなければ、欲しいと思っていた情報が入手できない可能性もあります。
デューデリジェンスは短期間に行われるため、事前に必要な情報が入手できるように範囲を明確化するようにしましょう。
(2)専門家の活用
前段でも少し触れましたが、それぞれの専門分野の知識を持つ専門家をチームに編成することで、より精度の高いデューデリジェンスを実施することができます。
M&Aを恒常的に行う会社も中にはあるでしょうが、多くの場合は単発で行います。
それに対して求められる知識は非常に専門性が高く、社内でデューデリジェンスを完結させられる企業は多くありません。
リスク低減の側面を考えると専門知識は必須といえますので、なるべく専門家を関与させるようにしましょう。
(3)情報の秘密保持
デューデリジェンスで収集した情報は、秘密保持契約に基づいて管理する必要があります。
M&Aを検討しているという事実すら、機密情報に該当します。
デューデリジェンスに入る前から関係者との間で秘密保持契約を締結する等、情報管理は徹底しましょう。
7.終わりに
M&Aの成功確率を高めるためには、事前調査であるデューデリジェンスをしっかりと行うことが重要です。デューデリジェンスは、買収先企業のリスクを把握し、M&A後のスムーズな経営統合を実現するための重要な手続です。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
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