建設業経理の基礎 建設業会計は営業取引の違いに集約される、建設業特有の勘定科目の解説
2025年6月6日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼
1.はじめに
建設業は、他の業種と比べて少し特殊な会計処理を行う業種の一つです。
工事の進捗に応じた収益認識や、特有の勘定科目の使い方が求められるため、一般的な会計実務とは異なる点が存在するため、初めて建設業の経理に触れる場合、少々混乱があるかもしれません。
本コラムでは、建設業特有の会計処理について基礎的な内容を解説し、特に未成工事支出金、完成工事未収金、完成工事高、完成工事原価といった勘定科目の使い方の違いについて説明します。
なお、建設業の経理において特に通常と異なるのは本業部分(営業区分)であり、つまりは売上と仕入(売上原価)の会計処理です。
本解説では、この営業区分の会計処理を「1.売上側」と「2.原価側」に分けて解説したいと思います。
2.建設業の収益計上(売上側の会計処理)
(1)工事進行基準(一定期間にわたり充足される履行義務)の適用
建設業の会計処理として特に特徴的なのが、工事の全てが完了した時点で収益を計上するのではなく、その進捗に応じて収益計上を行うケースがあることです。
どのようなケースが該当するかは、税務基準、企業会計基準で要件が異なりますが、税務基準では大規模工事に適用が義務付けられているのに対し、企業会計では工事の内容次第で規模に関係なく適用が求められます。
この会計処理方法は、以前、工事進行基準と呼ばれていましたが、収益認識基準導入後は、「履行義務が一定の期間にわたり継続的に充足される契約」として整理されました。名称は複雑になりましたが、計算方法に大きな変更はありません。
両者の違いに詳細を知りたい場合には、以下のコラムにて解説を行っていますので、ここで両者の違いについての詳細な解説は省略します。
(2)主要な勘定科目の相違
① 完成工事高
完成工事高とは、建設工事によって計上した収益を指します。
商社や製造業などの業種で使用する「売上高」と類似(ほぼ同一)した性質の勘定科目です。
勘定科目が変わったからといって大きく異なるものではないですので、建設業における「売上高」と認識しておいて良いでしょう。
② 完成工事未収金
完成工事未収金は、収益は計上したものの、まだ入金がされていない債権を表す資産勘定です。
商社や製造業などの業種で使用する「売掛金」と類似(ほぼ同一)した性質の勘定科目です。
こちらも、建設業における「売掛金」と認識しておいて良いでしょう。
3.建設業の仕入計上(原価側の会計処理)
(1)個別原価計算の適用
建設業では、通常、工事案件ごとに原価を集計・管理する「個別原価計算」が採用されます。
工事案件ごとにコードなどを付番し、材料費、労務費、外注費などの原価を集計することで原価計算を行います。個別原価計算自体は建設業特有のものではなく、個別受注生産で一件当たりの金額が比較的大型の案件に適用される原価計算方法です。
(2)主要な勘定科目の相違
① 完成工事原価と未成工事支出金
完成工事原価は、工事が完了した段階で収益と対応させて計上する費用科目です。
商社や製造業などの業種で使用する「売上原価」と類似(ほぼ同一)した性質の勘定科目です。
また、対応する収益の計上されていない状態の原価は、未成工事支出金として棚卸資産計上されます。こちらは、製造業などの業種で使用する「仕掛品」と類似(ほぼ同一)した性質の勘定科目です。
② 工事未払金
工事未払金は、外注先等への支払いがまだ行われていない場合の債務に関する負債勘定です。
商社や製造業などの業種で使用する「買掛金」と類似(ほぼ同一)した性質の勘定科目です。
これも建設業における「買掛金」であると認識しておいて良いでしょう。
このように、勘定科目の名称に違いがあるだけで中身の違いは大きく異ならず、建設業だからといって難しく考える必要はありません。
なお、上記は営業取引関係を中心に解説していますが、販売費及び一般管理費以降はさらに通常の会計(主に製造業を想定)との違いは限定的になります。ただし、工事損失引当金など一部建設業特有の引当金等が存在する点には注意が必要です。
4.終わりに
建設業の会計は、契約に基づく工事の進行とともに収益や費用を認識する必要があり、他業種と比較して異なる会計処理を行う部分があります。
完成工事高、完成工事未収金、完成工事原価、未成工事支出金、工事未払金など主要な勘定科目名も異なることから、初めて建設業の経理に触れるような場合には、注意が必要です。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
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