【図解】借り手の新リース会計基準・基本解説第一回 新基準の適用範囲を画定する「リースの識別」プロセス
2026年7月22日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

1.はじめに
2027年4月1日以後開始する事業年度から原則適用となる新リース会計基準(企業会計基準第34号)によって、企業によっては会計処理に大きく影響する可能性があります。最大の変更点は、これまでオフバランスとされてきたオペレーティング・リースを含む原則すべてのリースが、貸借対照表に「使用権資産」および「リース負債」としてオンバランス計上されるようになる点です。
これに伴い、実務において最初に直面する重要なプロセスが、自社の締結している契約の中から新基準の対象となる「リース」を網羅的に洗い出すことです。新リース会計基準では、契約書のタイトルが「賃貸借」や「業務委託」であったとしても、「リース」に該当する可能性があるため、適切な判断基準を理解することが必要です。
本コラムでは、新リース会計基準の適用範囲を画定する「リースの識別」の判断プロセスについて詳しく解説します。 なお、本コラムでは特に説明が無い限り、借り手(顧客)を前提とする文章として記載しています。
2.新基準における「リース」の定義と識別の原則
(1)リースの定義
新リース会計基準において、「リース」とは「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義されています。単なる役務提供(サービス)契約とは異なり、資産を使用する権利が移転しているかどうかが重要なポイントとなります。

(2)リースの識別要件
契約の締結時に、当該契約が「リース」を含むか否かを判断します。具体的には、契約が「特定された資産」の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、その契約はリースを含んでいると識別されます。これを判定するためには、使用期間全体を通じて以下の2つの要件を満たしているかを確認します。
① 「特定された資産」が存在するか
② 顧客(借手)に「特定された資産の使用を支配する権利」が移転しているか
これら2つの要件について、次項以降で詳しく解説します。
3.要件①「特定された資産」の判定
(1)契約における明記と「実質的な代替権」
「特定された資産」は、通常、契約書に明記されることによって特定されます。
しかし、資産が明記されていたとしても、サプライヤー(貸手)が以下の2つの条件を両方満たす場合、サプライヤーは資産を代替する「実質的な権利」を持っているとみなされ、「特定された資産」には該当しません。
① サプライヤーが、使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有していること。
② 資産を他の資産に代替することからもたらされる経済的利益が、代替コストを上回ると見込まれ、サプライヤーが代替権の行使により経済的利益を享受すること。
例えば、サプライヤーが多数の同型資産を保有しており、自社の業務効率化のために借手の承認なく自由に資産を入れ替えることができ、かつその入れ替えによって利益を得る(コストが軽微である)ような業務委託契約などは、特定された資産とはみなされず、リースには該当しない可能性が高まります。

(2)物理的に区分されていない資産(稼働能力の割合)
ガスタンクや光ファイバーケーブルなど、借手が使用できる資産が物理的に別個のものではなく、全体の一部(稼働能力の一部分)を使用する契約である場合、原則として「特定された資産」には該当しません。
ただし、借手が使用できる資産の稼働能力が、当該資産の稼働能力の「ほとんどすべて」を占めている場合には、例外的に特定された資産に該当します。例えば、特定のガスタンクの容量の99.9%を使用する権利を持つ契約であれば、稼働能力のほとんどすべてを占めるため、特定された資産があると判断される可能性があります。
4.要件②「使用を支配する権利」の判定
特定された資産がある場合、次はその資産の使用を支配する権利が借手に移転しているかを判定します。これには、以下の(1)および(2)の両方を満たす必要があります。
(1)経済的利益の享受
借手が、使用期間全体を通じて特定された資産の使用から生じる経済的利益の「ほとんどすべてを享受する権利」を有している必要があります。独占的に資産を使用でき、その資産からのアウトプット(生産物など)をすべて得られるような場合は、この要件を満たします。
(2)使用を指図する権利等
借手が、資産の使用方法や目的について決定権を持っているかどうかの判定です。以下のいずれかに該当する場合、借手は使用を指図する権利を有していると判断されます。
① 借手が、使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える「資産の使用方法(いつ、どのように、何のために使うか等)」を指図する権利を有している場合
② 使用方法に係る決定が契約や設計によって事前になされている場合で、以下のいずれかを満たすとき。
- 借手のみが、資産を稼働する権利(または第三者に指図して稼働させる権利)を有している
- 借手が、資産の使用方法を事前に決定するように、当該資産を設計している。
逆に、資産の使用方法が契約で厳密に固定されており、借手は単にアウトプットを受け取るだけで稼働や設計にも関与していない場合は、使用を指図する権利はサプライヤーにある(単なるサービス購入である)とみなされ、リースには該当しません。
これまでの解説した「リースの識別」の条件をまとめると以下のようになります。
図表としてまとめると上記の通りですが、依然として複雑に感じられるかもしれません。
上記の表を時系列に沿ってフローチャートの形式に置き換えると、以下のようになります。
5.終わりに
新リース会計基準における「リースの識別」は、これまでの会計実務にはなかった概念であり、契約の法的形式に囚われず、経済的実態に基づく慎重な判定が求められます、。オンバランス化の漏れを防ぐためにも、他部署と連携して自社の契約の棚卸しを行い、どの契約がリースに該当するのかを早期に特定するプロセスを構築することが重要です。
次回は、オンバランスする金額を大きく左右する「借手のリース期間」の決定と経済的インセンティブの評価について解説します。
当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。
本稿と関連するテーマのコラムは以下の通りです。是非、以下の記事もご覧ください。
- 【図解】借り手の新リース会計基準・基本解説第二回 B/S計上額を大きく左右する「リース期間」の決定と経済的インセンティブの評価
- 【図解】借り手の新リース会計基準・基本解説第三回 使用権資産・リース負債の算定とP/Lへの費用配分
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