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2026年08月19日
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上場準備企業におけるJ-SOX対応実務 第一回 上場準備企業におけるJ-SOX対応スケジュールと全体像

2026年8月19日更新
上浦会計事務所
公認会計士・税理士 上浦 遼

IPO(新規株式公開)を目指す企業にとって、内部統制報告制度(J-SOX)への対応は、上場してから考えることではなく、上場準備期間中に対応をしなければならない課題の一つです。上場後に義務付けられる内部統制報告書の提出は、準備無くして対応することは難しく、直前に検討を始めていては手遅れになる可能性があります。

一方、既に事業基盤の整っている企業が上場を目指す場合はともなく、スタートアップやベンチャー企業では、人員や組織体制が十分に整っていないことの方が多いでしょう。特に内部統制の整備では「牽制機能」が求められますが、この機能は役割分担やダブルチェックといった体制が前提となるため、限られたリソースでどう対応するかが現場における大きな課題です。

上場審査では、業績やビジネスモデルの将来性と並んで、内部統制の整備・運用状況も重要な審査対象となります。さらに、上場後には内部統制報告書の提出義務が発生し、形式的な整備では通用しない体制構築が求められます。また、誤解されやすいのは、「監査が上場後に猶予される」という制度上の特徴です。確かに、上場から3年間は監査法人による内部統制監査は免除されますが、内部統制報告書の提出は上場期から義務づけられており、準備の遅れは許されません。

このような背景を踏まえ、本稿では、上場準備企業がJ-SOX対応において「いつ・何を・どの水準で」進めるべきかを、実務に即したスケジュールで整理し、限られた体制の中でも対応可能な進め方を考察します。


J‑SOXは、主に上場会社に求められる制度で、企業自身で不正や誤りを防止する内部統制という機能の評価結果を報告する制度といえます。
もう少し専門的な説明をすると、金融商品取引法に基づき、上場企業が自社の財務報告に係る内部統制の整備および運用状況を評価し、毎期「内部統制報告書」として開示する制度です。これは、企業不正の防止と投資家保護を目的に設けられた制度であり、経営者自らが自社の統制体制をチェックすることが求められています。

上場準備の実務上、審査や監査の過程においてJ-SOX自体は事細かに見られないことも多く、やらなくてはいけないと思いつつも後回しにされているケースが散見されます。
審査や監査において重点的にチェックされない理由は、スケジュール上の重要性まだ高まっていない場合や、内部統制の変化が予測できることから急ぎ対応すると二度手間になる部分が出てくる等の理由が考えられますが、だからと言って対応をしなくて良いわけではありません。

上場時点において、内部統制報告書を提出するためには、内部統制が整備され、かつ実際に運用されていることが求められます。つまり、J‑SOX対応の開始は上場後ではなく、上場前に行われていなければならないのです。

金融商品取引法によれば、内部統制報告書の提出は上場した期から義務付けられています。一般的には、申請期に上場することが多いと思いますので、基本的に申請期から内部統制報告書の提出が必要となると思って良いでしょう。
一方、新規上場会社に限り上場後3年間は監査が免除される特例が設けられています。
この点、猶予されるのは監査のみであり、報告書は上場期から提出義務があるという点を正確に理解し、準備しておく必要があります。


J‑SOXで求められる内部統制の整備は、大きく次の二つの階層で構成されます。

①全社的な内部統制
ガバナンス、組織体制、職務分掌、内部監査等の企業の基本的な統治構造を対象とします。

②業務プロセスに関する内部統制
販売、債権回収、購買、支払、在庫管理などの財務数値に繋がる内部統制や、引当金計算等の決算業務に関する内部統制を対象にします。

両者ともにIT環境に関する評価が必要となりますが、IT関連の文書は少し特殊なため、上記IT関連文書を加えた3分類で管理しているケースも見受けられます。

上記の内部統制を評価するためには、整備状況評価と運用状況評価を行う必要があります。
整備状況評価では、いわゆる内部統制がルール化され、周知されているかどうかを検証します。まずは内部統制に関するルール等を把握し、文書化するフェーズであると考えると分かりやすいかもしれません。

上場準備を始めた際、まずは規定類を作り始めることがありますが、これは内部統制整備に他なりません。ただ規程作成に傾聴し過ぎると、実態から乖離してしまうこともありますので注意が必要です。
一般的なひな型を持ってきて会社名や部署名を更新すればいいわけではなく、規程は作成すると順守しなければならなくなります。規程違反等があれば上場審査でも評価を下げますので、企業に合わない規程を作ることは後々課題を生むことになります。

運用状況はこのルールが実際に運用されているかどうかを検証する手続きを指します。立派で厳格なルールを定めたとしても、これが有名無実化していては運用状況評価の際に不備となってしまいます。

このJ-SOXに関する対応は一時的な対策ではなく、上場後も維持可能な内部統制体制の構築を意識することが求められます。そのためには、形式だけでなく、業務との整合性、現場負荷、コストなどを踏まえた実行可能性の高い統制設計が必要となります。


以下は、理想的なスケジュールを前提とした各年度の対応内容です。あくまで理想形であるということを念頭においてください。
IPOの実務では想定外のことや内部統制自体の見直しが必要なことは珍しくありません。各社の体制や状況、事情に応じて柔軟な見直しをするという前提で取り組むことが必要です。

・ J-SOX対応まで見据えた内部統制整備方針
・ 管理部門体制の再編、職務分掌の明確化
・ 全社統制の整備を開始

この時期に完成した状態を目指すと、過剰なコストや組織負荷を招く可能性がある点に注意が必要です。
たとえば、内部統制において牽制機能は非常に重要な要素ですが、牽制機能には通常二人以上の人員配置が必要です。配置する人員が不足したり、人件費の増大を招いたりすることになります。
上場スケジュールの確度、実務負担やコストと、理想とのバランスが重要です。

・ 業務プロセスの整理(業務記述書、フローチャート、RCMの作成開始)
・ 会計システムや基幹業務システムのアクセス管理、変更管理の整備
・ 整備状況評価の実施と改善

この段階においては目標とする上場期が明確にし、証券会社や監査法人などの関係者の関与が決まり始めていると思いますので、J-SOXを意識した体制整備が必要となります。
N-3期で準備が完了していない分野は引き続き整備に努めたうえ、上記のような業務にあたります。もちろん、上記よりも前倒しで運用状況の確認やドライランが始まっていれば、なお良いでしょう。

ただし、上場準備企業においては人員拡大や責任者の配置、新たな部署の設置、転換等の内部統制が変化するイベントが起きやすいことにも注意が必要です。
この時点で上場時にそのまま使用可能な完全な文書化まで辿り着けない可能性もありますので、その後もフォローは必要であること、変更が見込まれるプロセスは後ろ倒しにする等の柔軟な対応も必要です。

・整備状況評価の更新
・サンプリング調査、証跡確認などの運用状況評価の実施
・統制不備の是正と再評価
・監査法人とのレビュー調整(必須ではないが実施を推奨)

この段階では上場の可能性が見えてくるため、なるべく本番環境に近い水準で運用が始まっていることが理想です。正直、上場準備の実務現場では、J-SOX対応を後回しにするケースは多いですが、N期の本番環境においてエラーが出た場合に上場スケジュールに影響が出る可能性もあります。

・経営者による内部統制の有効性評価
・内部統制報告書の作成と提出

上場申請期にはJ-SOX対応は完了している必要があります。
通常、上場申請期に実際の株式公開まで至るケースが多いと思いますが、上場をした期からは内部統制報告書の提出が必要となります。繰り返しますが、猶予されるのは監査のみですので、原則として上場した期から本番環境での運用が求められています。


J-SOX対応は段階的な対応であっても上場審査段階においても整備が完了しており、さらに運用も開始している状態を理想とします。内部統制報告書の提出や監査を受けるまでには、J-SOX対応は原則完了しておかなければなりませんが、既にある程度完成した管理体制を有しているようなケースを除くと、J-SOX対応には少なからず内部ルールの制定改廃が伴います。
しかし、社内ルールは規程などのみ変えても浸透には時間が掛かります。運用状況まで踏まえると相当の期間を要することを念頭に置いておく必要があります。

内部統制監査は上場後3年間猶予されますが、内部統制報告書の提出義務は上場期(通常は上場申請期)からあります。意外と多い勘違いですが、非常に重要な点ですので注意しましょう。

文書や規程を整備しても、実際にその統制が運用されていなければ有効性を評価できません。
ルールの制定、改廃には一定の工数が掛かりますが、そのルールを従業員等の構成員に浸透させるにはさらに時間が掛かります。
実際に内部統制が働いていることは、運用状況評価により検証し、サンプリングや証跡確認などを通じて実行されます。

J-SOX対応は全社的な協力が必要です。IPOのプロジェクトチーム等が中心となって対処することが多いことから、管理部門主導となりがちではありますが、J-SOXで対象となる内部統制は管理部門にある統制だけではありません。
業務部門等の現場サイドの協力は欠かせず、管理部門だけで対応しようとせず、業務部門も含めたスケジュール管理と早期の情報共有、協力関係が必要です。
また、重要なのが経営層からの発信です。これまで求められたことのないルール(内部統制)の整備には、会社全体で取り組むべきことであるという発信が無ければなかなか実効性を担保することが難しくなります。


正直、上場準備の現場においてJ‑SOXの対応が後手に回っているケースは多いです。
上場準備企業においては、監査が一定期間猶予されていることに特徴があるのは事実ですが、それは決して内部等報告書制度に全く対応をしなくて良いわけではありません。
この猶予期間を正しく理解しつつ、最終的な着地を見据えて早期から対応することが大切です。

次回は「整備状況評価の実務とポイント」に焦点を当て、より実務的な視点で解説いたします。

当コラムの意見にあたる部分は、個人的な見解を含んでおります点にご留意ください。


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